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第13話 出発直前

 陛下から帝室派遣官の印の紋章入りペンダントを受け取ると、俺達はチェリ行きの支度を調えるべく、一度戻った。

 館に戻るとすぐに領主様が出てきて。


「おーお帰り。チェリ側から書簡が届いているぞ」


 でかい声でそう言ってきた。


「書簡」

「まあ見ればわかるとは思うが面倒だなあ、向こうの文書ってのは」


 領主様がバルバラに渡し、すぐに二人して見たその文書は、時候の挨拶に始まり、このたびの皇帝陛下のお話によりこの縁談のまとまったことの喜ばしいことの云々、つきましてはいついつまでにどれだけの方々がいらっしゃるのか云々、その際こちらに支度もある云々、到着の折りには王宮でお出迎え及び歓迎のパーティを催したい云々……


「場所があれば適当に居着くが、という訳にはいかないようで。それにしても面倒ですね父上、確かに」

「儂ゃこの国の文書を見る都度頭が痛くなるんだ。いい加減お前等に任せたいとこなんだがな」


 にやり、と領主様は笑った。


「とりあえず父上、この歓迎パーティとやらは何か食べられるでしょうから応じますが、お出迎えとやらはできるだけ簡素化する様に、返答してくれませんか」

「そうだな。何かしないとまずい、と王家の連中は思っているんだろう。そういう形があの国は好きだからな」

「あーもう、肩が凝りそうだ。そう言えば父上、まさか私、向こうの服を普段着ていなくちゃならないのですかね?」

「一応お前は陛下の代理人だからな、何を着ていても文句は言われないだろう。まともな神経を持った者ならな」


 帝都では、皇宮においてもそれぞれの部族の正装で登城するのが普通だった。

 何処に居ても帝国の一部であり、わざわざ帝都の流行だのに合わせる必要は無い、そもそも所詮この帝室にしても、各国をまとめ上げたに過ぎないのだから――

 それが文化面における皇帝陛下のお言葉だった。


「ではこっちでの正装と普段着を沢山持って行きます。あと表と裏で――」


 表は向こうにおける「小間使い」等の女手。

 俺は直属の護衛騎士で、常に彼女についている、という設定だった。


「まあ向こうでいちゃついてもいいが、子作りは帰ってからにしろよ」

「父上! 残念ですがまだその域には達しておりません……!」

「そうか…… お前もなかなか苦労するな……」


 何というか、俺は非常に可哀想なものの様に見られている気がする。

 そのうち奥様もやってきて、逞しい腕で背中をばんばん、と叩かれた。


「バルバラは無茶するから、ちゃんと受け止めてやるんだよ!」

「当然です」


 いやもう何を今更、だ。

 ちなみに帝都に行った際にも何度街中で冷や冷やする目にあったことやら。

 まあ俺を含めた護衛騎士達に、ある程度の「街」を見せておく必要があったのだろう。チェリは帝都ほどは大きくないが、小洒落たところは多いだろうから。

 なおこの帝都の旅ではこんな意見が多かった。


「しかしこの湯屋は何とかできないもんかなあ」


 そう言っていた者も多いのだが、湯屋は気温がある程度高いから可能なのだ。

 低すぎると、そこから直接温かい家の中に通じる廊下が無い限り、身体を恐ろしく冷やす可能性がある。

 まあその辺りも建築技術次第なのだろうが……

 とりあえずまたもや共に行くことに決まった面子は、湯屋に行ける、と喜んでいた。

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