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第11話 皇帝陛下への謁見①

 まあともかく、皇帝陛下のもとに謁見すべく、帝都へ向かった。

 辺境伯領と帝都は案外近い。

 と言うのも、辺境伯領は北のかなりの部分を覆っているので、そこを一歩越えるともう帝都付近、なのだ。

 なのでそこまでの道行きはひたすら野営一択だった。

 帝都に入ったらまずバルバラと世話する女以外、皆して湯屋へ直行だった。

 これは皇帝陛下から謁見の前の注意書きにあったものだった。

 さすがに普段の姿で皇宮に行くのは何だろう、陛下はともかく、周囲の慣れない連中からの心象は良くしておいた方がいい、という配慮らしい。

 入ってみると皆びっくりだった。


「湯がたっぷりだあああ!」


 護衛騎士達は皆驚いた。

 俺達は蒸し風呂で汗と垢を落とした後に、湯でそれを流す。

 湯に浸かるということは無い。


「こ、これは、慣れちゃいかん気持ちよさだなあ……」

「全くだ」


 本当に。

 俺もしみじみ思う。

 こんなのが普段から味わえる生活なのだから、帝都はやはり豊かなのだな、と俺は思った。


 そしてその話を謁見時にしたら、皇帝陛下は高笑いなさった。


「チェリ王国もそれは普通だ。慣れすぎると大変だから早く解決した方がいい」


 そうさらりとおっしゃる。

 そう、皇帝陛下はバルバラだけでなく、調べがついていたのだろう、婚約者の俺も謁見の対象に入れてきた。


「いやあ、熊とリスかウサキ…… いや、戦闘力高そうだから、……」


 戦闘力の高い小動物って何だったかなあ、と領主様と同じくらいの歳の方が真面目に考える様は何と言っていいんだか。


「まあ資料を見てもらってわかったとは思うが、麻薬ルートに関しては、だいたいの目処はついている。トアレグにある、チェリの飛び地が問題だろう。あそこがあることで、まず国境の通商に対するむ警備が甘くなっている。だとしたら、その持ち主に目が行く。デターム子爵領だ。ここの三男坊が、かつてこの帝都のアカデミーに在籍していて、少し前までチェリの第一王子にの教師だったことも判ってる。宮廷に広がるのもそのせいがあるだろう。ただ何故その男が、そんなことをわざわざするのか、動機が見えない」

「動機ですか」

「下級だがそれなりに豊かな子爵の三男坊は、まあお気楽に過ごせるのがあの国だ。ザクセットは皆と共に相変わらず薪割りをしているか?」

「はい。できなくなったら時が身体が駄目になる時だと」

「お前等のところはやや武に偏りすぎてはある…… が、環境が環境だ。仕方なかろう。むしろあの環境を好んで生きているのが驚きだろうな、チェリの人間からしたら。だが格式から言えば、お前等の方が、チェリ王国の誰よりも高い。それだけは皆良く知っているはずだ。内心忸怩たるものはあってもな」

「やはり嫌なのですか? 向こうの人間は」

「チェリ出身のアカデミー留学生を見てれば判るがな。妙な気位の高さがあってな。まあたまに逸材も出るが。そうそう、まだ儂が皇位を狙う皇子の一人だった頃、留学してた中に居た者は、話し相手としてなかなか良かったな。そうそう、デタームの三男坊もそれだ。だから惜しいというか。だがまあ、そういう奴だからこそ、何かに走るのもかな。そっちに送った中にも、当時やたらに元気な思想犯が居たしな」


 そう言えば俺も一度思想犯、と言われていた人を見たことがある。

 普段は流刑者は流刑者で、その辺りを詮索はしないものだが。

 ただ客人として来たセルーメさんが、思想犯だった人を呼び出したことがある。

 俺がまだ、お守りに加えて見習いになった頃だ。

 後でそれがラルカ・デブンと知ったのだが。

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