「……」
どうやら自分のところに触れて考えているようだ。
「無理だな」
「でしょう?」
ちょっと待って下さい、と俺は立ち上がり、立ち上げたものを吐き出すべくトイレに行く。
戻ってきた時、お嬢は考え込んでいた。
「今は無理かー」
「広がるんだとは思いますよ。だってお嬢さん貴女奥様が坊ちゃんお産みになった時に側に居ましたよね?」
「ああ。馬や羊の出産だって見たぞ」
「だから広がることは広がりますよ。ただ貴女まだそこが通ったばかりですし」
「なるほど」
「かと言って! 何か突っ込んだりして訓練するとかは無しですよ! せいぜい指くらいにしておいてください!」
「わかった。けどこのくらいはいいだろう?」
そう言って、彼女は俺の顔をぐい、と掴んで唇を合わせてきた。
食われる! と思うくらいの勢いだった。
ぐいぐい口の中を蹂躙された後、バルバラは言い放った。
「私はお前しか婿にする気は無いからな。絶対」
「はいはい。だいたい俺をそういう意味で好きだ何だって言ってくれるのは貴女だけですから心配せず」
「そうなのか?」
「でかすぎですと」
いや俺だって、全く周囲の女性に思うこと無い訳ではない。
だが既に護衛騎士の中でも一番でかくなって、なおかつ熊相手にどうこう、なんて話が出てくると、やはり女達も限度というものがあるだろう、と引くらしい。
それに俺のこの胸毛腹毛腕毛膝毛というもの。
「熊みたいでいいじゃないか」
「だからそういうのは貴女だけですってば」
それもまた、程度があるのだ、と。
「わかった。まあともかく了解は取ったから、お前は今日から私の婚約者でもあるからな!」
「はいはい」
色気もへったくれもない。
だがまあ、そんな風にして俺は彼女の婚約者ということになり――
まあ、大概は彼女の座椅子になっている。
*
その座椅子としては、彼女の考えをまとめる際に良く使われるのだが。
「ともかく陛下に謁見して特にどの辺りを見定めるべきなのかはちゃんと確かめなくてはな」
「そうですね」
「ああもう! あと一年二年後だったらとっとと結婚してこの役目に就かずに済んだのに」
「いやいやいや、だからでしょ」
「だから、だと?」
「たぶんぼろが出るのは王子の成人と結婚が間近になった頃だろうから、その時に送ればいいんでしょうが、その時だと貴女が既に結婚していて、送れない。で、今ちょうどいい年頃の辺境伯令嬢が居ない。ということでは」
ぎりぎりと彼女が「皇帝陛下め~!」と歯がみしたのは言うまでもない。