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第8話 熊と素手で戦える奴に襲撃するお嬢

 ちなみにこの時点で俺と彼女は二十二歳と十七歳である。

 傍から見て妙齢の男女がこの体勢は無いぞ、と思われるかもしれない。

 まあ当然だ。

 彼女の中で俺は既に婚約者なのだから。

 と言うか、俺もまあそうなるんだろうなあ、と思っている。


 そう、あれはこの二年前、彼女が十五歳、俺が二十歳の時だった。

 この時点で俺は既に護衛騎士見習いではなく正式なそれになっていて、なおかつその中でも有望株というか、力が強いとかでかい剣を誰よりも振り回せるとか、熊と素手で戦えるとか色々言われていた。

 熊は嘘ではない。

 ただしヒグマではなかっただけのことだ。

 ヒグマだったら確実に素手は無理だ。

 フル装備でないといけない。

 が、戦えない訳ではないと思う――いや、過信してはいけない。

 ヒグマは本当に、本当に! 強いのだ。

 話が逸れた。

 ともかくこのお嬢さんに関しては、五歳の時から十年お守りと剣の稽古と勉強に付き従い、なおかつ外でやんちゃをする彼女がケガしないように走り回り、実際にケガをしたら即座に応急処置をしてまた館に抱いて走り回り、館の高い木に登っては飛び降りそうになるのをせめて低いところからにしてくれ、と止めたり、まあちょっと思い出すだけで冷や汗が出ることはたぶん護衛騎士の数くらいは軽くある。


「……いや、本当にお前をお守りにして良かったよ……」

「全くだわ」


 領主様も奥様もしみじみと言ったものだった。

 そんな彼女も十年のうちには子供から少女になり、また大人に近くなって来た。

 なのだが。

 このお嬢ときたら、遅めの初潮が来たら今度はとんでもないことを俺に仕掛けてきた。

 それが十五の時だった。

 ひらたく言うと、夜這いをかけてきたのだ。

 俺はまあ、専属の護衛だったので、ご家族と同じ階の詰め所にその頃は暮らしていた。

 ありがたいことに一階の詰め所よりもやや広めだ。

 そこにお嬢さんは襲撃してきた。


 あれは確か、秋の祭りの時だ。

 このザクセット領では、春と秋に大きな祭りがある。正確に言えば、夏のはじめと終わりだ。

 冬が長く厳しい土地では、春も秋も他の地で言うところの冬とそう変わらない。自然の恵みを心ゆくまで収穫できるのは夏しかないのだ。

 その春の終わり、夏の始まりを祝い、そして夏の終わりに、夏があったことを天に感謝する。

 特にその収穫祭とも言える秋の祭りはかなり無礼講の感が強い。流刑地の方でも拘束が緩むので、脱走する者も出るという。

 ただ脱走すれば今度は指名手配犯となるので、そうそうする者が居ないのだが――

 ともかくそんな、皆が浮かれて数日酔い騒ぐのが、秋の祭りだった。

 領主様も奥様もその他若君達お嬢さん達も、護衛騎士つきなので、徹夜で遊び回ることもこの時だけは許される。

 さすがに小さすぎる子供と、それにつく乳母や保母はともかく、それ以外の男女はこの時とばかりに野合するのだ。

 まあこれがところ構わず。

 皆浮かれているので、まあそんなものだろう、と俺も何だかんだで男女がそうすることで子供ができて結婚するのだなあ、と遠くで眺めながら理解していた。

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