「お前相当バルバラに好かれてるぞ」
領主様はがははは、と笑いながら俺に言う。
そのバルバラお嬢さんは、領主様の横から下りると、俺のところに寄ってきては、膝によじ登ろうとしてくる。
「こいつは五歳になるだがな、ちょっとちっこいのを気にしててなあ。ウチのかみさんもきょうだいもでかいから、余計に」
「いうなー!」
そう言いつつも、とうとう俺の膝までやってきた。
それがお嬢さん――バルバラとの出会いであり。
俺は今でも彼女を膝に乗せたりしているという訳だ。
*
「とりあえず陛下の資料によると、問題はチェリに麻薬がはびこってること、何か国境線がゆるゆるになっていること、その首謀者が宮中に居るか近い人間だってことなんだな」
バルバラは床の上、俺の組んだ足の上に乗っかりながら話を続ける。
このお嬢さんはともかく昔からこういう体勢が好きなのだ。
もうそれはずっと変わらない。
「護衛騎士はどのくらい連れて行きますか?」
「まああまり連れていけないな。というか、あそこの宮中で我慢できる奴がどれだけウチに居る?」
「じゃあ、表向きと裏向きと両面ですね」
「そうだな」
この館の護衛騎士はざっくばらんで裏表が無い者ばかりだ。
正直言って、この資料にあるチェリ王国の宮中など行ったら、肩凝って仕方ねえ! と叫び出すだろう。
「できそうなのを見繕って、そっちを表、あとはあちこちチェリ国内を調査できる連中を沢山揃えた方がいいな。陛下もその辺りの予算はくれるんだろうな!」
「ご自分で聞いてみればいいんじゃないですかね?」
俺はわしゃわしゃと彼女の髪をかき回す。
肩のところで切り揃えられた髪は、猫っ毛で何となくついかき回したくなってくるのだ。
「あー!」
「何ですか一体」
「髪だ髪! 皇帝陛下のとこはこれでいいけど、チェリだとまあ色々ぴーちくぱーちく言われるんだろうなあ……」
「ああ、そう言えば昔、セルーメさんが言ってましたね。向こうでは女性の髪は皆長くしていると」
「いや帝国全体を見ても、大概伸ばしてるな。男だって伸ばす場合もあるし。わざわざ合わせてやる必要は無いし、まあたぶんあぶり出し的にはそれでもいいとは思うんだが……」
「その辺りも皇帝陛下に聞いてみればいいんじゃ?」
「お前聞くのか?」
「そこはバルバラが聞くんでしょう。いや俺は別にどっちだっていいんですがね」
そう言うと彼女は俺の膝を思いっきりつねった。