「託児所に聞いたが、お前十歳だって?」
ああもうさっそくそれだ。
「あ、はい」
「それで、十二になったらどうしたい?」
直球で来たな。
「護衛騎士になりたいです。見習いに入れていただけたら、と思ってます」
「返答が早いな」
「……ずっと思ってましたから」
領主様は濃いひげを撫でながら、少し考えると、娘の方を向いた。
「おいバルバラ、こいつは護衛騎士になりたいんだと。お前の望みは無理じゃないのか?」
むっ、と領主様の横にちょん、と座っているバルバラ嬢は口をへの字に曲げた。
だが。
「望み?」
「おぅ。いやー、娘の中でもこいつは一番やんちゃでなあ。今日も一人でふらふら乳母の目盗んであんなとこ行っちまってる始末よ」
「だってアーシャ、さむいからってつれてってくれないから」
「女達はまだ籠もってる季節だ。だからこいつの望みをいちいち聞いてられねえんだよ」
「はあ」
「で、だ。お前十二まで、こいつのお守りしねえか?」
「お守り?」
「おまけで、十二になったら護衛騎士見習いにするってことで」
「いやいやいやいやそれは条件良すぎですよ」
「いやいやいや、俺からしたら何人居たって可愛い娘だぜ。そいつの命の恩人だ。仕事の世話の一つや二つや三つしてやらねえとまずいだろ」
「いやでも、向こうでの手が足りなくなるだろうし」
「ああ託児所か。でもな、お前たぶん、結構居づらくねえか? ほれその服」
気付いていたのか。
「目ががたがたじゃねえか。それ自分で縫い合わせたんだろ」
「……あ、はい。俺の大きさは無いって言われましたし、わざわざ新しく特別に用意は」
「言えば良かったのによ」
「この服、出てった兄貴分達のものなんです。それを二つ使わなくちゃならない奴なんて、この後また出るとは思えないし。それにこれ、俺がもう少し大きくなった時には、解いて少しずらせば何とかなる様に、布を多めにとってるんです」
ちょっと脱いで見せてみい、と領主様は手を出した。
部屋は暖かったので、俺は言われるままに脱いだ。
領主様は服をひっくり返すと、俺のがたがたの縫い目と、びらびらと多めにとった布地を眺めた。
「まだまだでかくなる予定なんだな。けどこれが破れたらどうする?」
「繕います」
「あと一年と少し。保つか?」
「……」
正直、その一枚では保たないとは思う。
だが二枚をもらって作ったものだ。
もう二枚くれとは、さすがに寮母さんには言えなかった。
「お前の身体、たぶんここの誰よりもでかくなるぞ。俺よりな。ついでに毛深くもなりそうだな」
む、とさすがにそこはちょっと俺も口籠もった。
「こういう奴が育つ勢いってのは、この服程度じゃ足りねえよ。お前、大人もの着な」
そう言ってほい、と返してきた。
「託児所には話を通しておく。薪運びが足りなくなるって文句が出るならそれは管理もおかしい。その辺りは俺が直接聞く。こういう時ガキは大人の言うことを素直に聞いておけ。そんでお前今日から詰め所に居ろ」
はい、と俺はうなづくしかなかった。
そして途端に、お嬢さんが飛びかかってきた。