目覚めたのは護衛騎士の詰所だった。
「よーぅ、やっと目が覚めたかー」
「すまんかったなー、蜂蜜酒だったんだあれ」
「お前身体でかいからいいかなと思ったけど、そーいえばまだガキだったんだよなあ」
待機していた護衛騎士のひと達が、ぱっと身体を起こした俺を見て、笑いながらあれこれ声を掛けてきた。
「あー、お前が放り出してった薪な、池の方の様子見に行った奴が、託児所に届けたって言ってたぜ」
「あ、ありがとうございます!」
そうだった。頭からそのことがすっぽり抜け落ちていた。
「けど本当お前幾つだ? 託児所に居るってんなら、十二になっていないんだろうけどよ」
「十です」
へえとかほぉとかふぅんとか、目を見開かれて驚かれた。
判ってはいるけど。
俺の服は良い寸法のものが無いので、出ていった歳上の置いていったものを二枚継ぎ合わせて作ったものだ。
「とーちゃんもかーちゃんも死んだんか?」
「あ、母さんが。父さんは俺を育てられないからって」
「おー、そうか…… まあでもな、だいたいこの辺りはそんな奴ばかりだしな」
慰めようとしてくれたのかもしれないが、何となくずれている気がするんだが。
「あーそう言えば、お前、起きたら領主様が連れて来いって言ってたな」
「おー、そう言えば」
「しまった忘れるところだったぜ」
……適当だ。
「仕方ねえ! 俺が連れてってやるぜ! 行くぞ!」
その中でも声が良く通る小柄な男が、俺をせっついた。
大の男だが、今の俺と一緒か…… 少し小さいくらいなら、それは小柄と言っていいだろう。
領主様の部屋は三階にあった。
この館は一階の殆どが護衛騎士の詰め所となっているらしい。
ご家族は二階以上に住んでいる、ということだった。
赤い絨毯を踏みしめながら登っていくと、ひょい、と子供が顔を出した。
「お嬢! もういいんですかい?」
「わたしはだいじょうぶだ。よこのが、わたしをたすけてくれたのか?」
お嬢――さん。
というと、あの時の子供。
「元気になっていて良かった」
「わたしはもともとげんきだ。こい。とうさまがまってる」
こそっ、と小柄な男はつぶやく。
「信じられるか? あれで五つなんだぞお嬢は」
「え、三つ四つかと」
するとくるっと「お嬢」は振り向き。
「いまなんっていった!」
「え」
「わたしがみっつよっつにみえるのか?!」
「あ、はい」
素直だなあ、と小柄な男はからからと笑った。
「怒鳴るな怒鳴るなバルバラ。ほれ、お前もこっち来い。テーレ、お前はここでいいぞ」
「承知」
小柄な男はテーレと言ったらしい。
少し大げさなほどうやうやしい礼をすると、その場から去っていった。
そして俺は領主様の部屋へと招き入れられた。