託児所ではそれなりに充分な食事を与えられていたので、俺はすくすく育った。
と言うか、大概俺に託児所で会う人はこう言った。
「職員かい?」
いや違いますって。
と言っても、既に俺の身長は世間一般の大人くらいはあった。
筋肉こそそこまでではないが、それでも皆より滅茶苦茶沢山の薪を運べるとか重いものを持てるとかで重宝してもらえるくらいには。
だからその身体の大きさを生かした作業に回ることもたびたびあった。
子供達はその年齢と身体の大きさ、頭の良さに応じた仕事を五つ六つの頃から少しでもするようになっていた。
最初に与えられる仕事は大概、木の実拾いだのきのこやコケや野いちごといったものの採集なんだが、俺は最初から枝拾いだった。
薪を切って運ぶ前段階の、森で大量の小枝を拾って運ぶ仕事だ。
勉強も読み書き計算はその頃から覚えさせられる。
できないよりできた方が絶対にいい、というのが先代の旦那様から延々続くお達しらしい。
仕事して、勉強して、それなりにごはんを食べて。
年に二度、春と秋の祭りにはお菓子ももらって。
両親は居ないけど、俺はたぶん充分満足していた。
ただ、十二歳になったらどうしよう、とは思っていた。
一番いいのは、やっぱり護衛騎士になることだ。
そうすれば伯爵家の詰め所に居場所と仕事を貰える。
だがその見習いになること自体がまず難しい。
なりたい奴は多い。ただ、どういう基準で選んでいるのか誰も判らない。
そう思いながら、その時は既に薪を沢山背に積んで歩いていた。
林で大人が切った木を、更にある程度の長さに揃えて切り出し、それを積めるだけ積んで戻る。
薪自体は乾燥が必要なので、託児所の薪小屋に入れて…… 隙間はどの辺りにあったかな……
そんなことを考えながら、林から出て、湖の縁の道を歩き出していた。
ふと。
小さな子が氷の上に乗っていた。
嫌な予感がした。
辺りに大人は? いい身なりの子供だよな? 大人見てないのか誰も?
「おーいそこの子!」
俺は薪を背負ったまま、できるだけ早くその子の乗っている辺りの近くへと走った。
縁から数メートル先。
この池は真冬なら氷に穴を開けて魚を捕るし、夏には小舟を出して泳ぐこともあるくらいだが。
今は春だ。
氷は乗れる程度にまだ厚くはあるが…… 乗り続けられる程かどうかは。
だいたい切り出し作業が上手くいく程度の気温になってきたんだ。
「ゆっくり…… ゆっくり戻って!」
俺のその声が、切羽詰まっていたせいか、子供はこっちを向いた。
そして足を踏み出した時――
がぼ、と音がした。