そんな風に色々誘われた結果、こうやって時々呼び出されては、現状報告する訳だ。
で。
「ところで今日はそもそもはクイデ様からのお手紙ということでいらしたのではないでしょうか」
「あ、そうそう。マリウラ宛てにわざわざ来てたから。読んでないわよ」
「……渡しますよ、読んでから」
検閲はしなかったけど、情報が幾らでも欲しいこの方がそのまま放っておく訳がないのだ。
「お久しぶり。
元気でやっている?
私は元気です。
マリウラには先に言います、子供ができたの!
びっくりだわ。
帝都に結婚の報告に新婚の旅行がてら行って戻ってきたらわかりました。
夫はもう踊りまくって喜んでます。
私はというと、自分が親? というので、どうしていいのか判らないです。
母のこともありますので、私はどう生まれてくる子供に接したらいいのか。
ただ、夫のご両親も周囲の人々もともかく子供が一人増えるのは嬉しい、皆で育てるし大丈夫、と言ってくれて。
確かにその様です。
私の今居るこのアイデイル草原侯爵領は、名の通り、ともかく広い草原の大地です。
基本的に人々は草原で羊を飼い、馬を走らせ、狩りをし、暮らしてます。
侯爵家はその中では珍しく、大きな建物を持ってます。
館は湖の近くにあることから、ここでは水をたっぷり使えて、湯を湧かす風呂も用意してくれました。
ただ、私と夫はまだ侯爵ではないということで、今は出身部族の幕屋に住んでおります。
沢山の幕屋はありますが、その一つに私と夫二人です!
家事をしてくれる者も居るのですが、夫が何でもできるので、私もついて覚えて行くことにしました。
夜になると冷えるので火をおこすとか、簡単だけど掃除はするとか。
食事は女達が皆でよってたかって用意をするので、その中に何となく入れてもらってます。
奥様奥様と言われてはいるんですが、それでもちゃんと平たいパンを粉を練るところからざっくり教えてくれる人々の近さと、それに不快感を覚えないことに自分でも驚いてます。
たぶんこの地の人々に対しては、言葉の裏を読まなくていいからなんだなあと。
宮中では、ともかく言葉の裏を読んだり、何を考えてるとかいちいち思わなくてはならなかったけど、ここではその心配はなくって。
生きるのに大変だから、と言えばそれまでかもしれないけど、日々がわかりやすいのはとても私にはとっても嬉しい。
マリウラが言ってた、何とかなるというのは確かに効いたわ。
ああそう、夫に再会した時、例の刺繍したものを差し出したら、覚えててくれたのか、とびっくりして、喜ばれたの。
持っていってよかった、と本当に思ったわ。
私はたぶん、こういうわかりやすい何かが欲しかったんだと思うの。
色々先生から学んだし、一方で淑女のたしなみやら色々覚えさせられたけど。
あ、でも一応皇帝陛下の元に参上した時には役だったわ」