「イムスイ侯爵領の民のかなりの数が商人よ。お母様はそんなお
さらっとそういうことを小声早口でまくし立ててくださる。
でもその一方で、手は持っていた巾着から毛糸を出して編み物をしているのだから、恐れ入る。
「情報大事よー。だからこそ私の離れは厳重に普段からしているの。私がこういう性格だってこともまず誰も知らないでしょう? エルデお姉様はご存じだけど。私はお姉様が次の王になると思っていたし。セインは駄目。あれは甘過ぎ。エルデお姉様は長子であるし、それに民のことを考えているわ。あ、私は駄目よ。民のためよりつい、国の利益は! の方に頭が傾いてしまうのよね。だからこの救貧院にしても、ただ建っているだけじゃ勿体ない、ってことであくまで慈善のためにと手を尽くしていたお姉様から引き継いだって訳。今、太后様はお父様と失った日々を過ごすのに夢中で遊ばすし。こっそり地道に改革するには今が一番じゃないかな、と機会をうかがっていたのよね」
「は、はい」
「そもそもこれだけの人数が入ってきているのに、人材をきちんと生かさないというのはやっぱり勿体無いのよ。貴女の様に使える人材は使わなくちゃ。無論貴女はここでずっと働くことが罰となっているんだけど、それでも待遇は良くすることができる。ただすぐに良くすると、それはそれで周囲から浮くわよね。それはまずいでしょ。だから地道にね」
そしてまあ、この方は地道に私はいずれ院長にさせる計画を練っているらしい。
というのも、今の院長もその周囲も、どうもユルシュ様に言わせれば「無能」だそうだ。
「慈善事業としてはいいのよ。ただどうもそれだけだと、皆そこに頼りきりになるわ。だからちゃんと手に職を付けさせて、ここを卒業していく様な形にしたいのよ。どうしても外では働けない身体が弱いとか何処か身体の一部を失ってるとかそういうことが無い限り。それと、どうしても外に出してはいけない、という問題のある者もちゃんと洗い出さないとね。そういうのは、またそれなりの場所をきちんと作らないと」
さくっとそう言ってのけるが。
一体このひとはいつそんなことを考えていたんだろう。
「その出してはいけないっていうのは? 思想犯ですか?」
「思想犯は使い様があるわ。そうではなく、誰かをぶち殺したくてたまらないのが通常運転、とかそういうのよ」
さらっと言う言葉ではないですって。
「いやそういうのって、結構居るのよ。お母様と一緒に実家の領地に行ったことがあるのだけど、まあ柄が悪い連中も沢山居たわ。だけどそれはそれでそういうのもまとめる組織もちゃんと――というとおかしいけど、あることはあるのね。それを領主として把握して取引しているという感じで。悪は悪としてつかいどころがあるし」
やだこの方こわい。