私が救貧院に送られた後、しばらくしてユルシュ様は私に会いにやってきた。
「マリウラ~元気だった?」
そう、一応罪人である私に、宮廷と同じ態度で非常に明るく話しかけてきたのだ。
「これはこれはユルシュ様、お久しぶりでございます。この様なところに……」
「やだー。私今度ここの統括になったの。それでねー、頼みがあるの」
頼み、の辺りから声のトーンを表情も変えずに一気に落とす辺り、素晴らしいこと極まりない。
このひとは、笑顔で人を罵倒できる。
私はこの時確信した。
そこで人払いをした上でこの方は私と二人きり(と言っても無論さりげなく護衛があちこちに潜んで居たのだろう)になって、明るく、時にはトーンを落として言うのだ。
「貴女救貧院の内容を私に教えなさい」
いや、ストレートにこう言った訳ではない。
総じて言えばこういうこと、だったのだ。
「あのー…… 私一応罪人でここに居るんですが」
「罪人だって使える者は使わなくっちゃ。私の立ち位置って微妙だから、何かするにしても、今一ついい人材が集まらないのよね」
何だろうこれは。
何となくこの考え方は帝都の人々に似ている気が。
「ああ、ちなみに何も私にそういう考えの教師がついている訳じゃあないのよ。私の最大の教師はお母様だから」
アマイデ様でしたかーーーっ!
*
第二側妃アマイデ様は、養父から聞いた話では政略結婚の側妃だった。
第一側妃タルカ様がエルデ様という女子しか産まない、ということでまたすぐに用意された、侯爵家の令嬢だった。
第二側妃の離れは警備が非常に厳しい、という噂が立っていた。私はセイン王子がさして姉妹と格別仲が良いという訳ではなかったので、この方とユルシュ様には近寄らなかったのだ。
ただ情報はそれなりに集めていた。
ともかくユルシュ様はエルデ様と仲が良かった。
エルデ様が長子として、何かと王家直轄の慈善事業に携わるのは当然だったが、そこにことごとく「お手伝いしますっ」とばかりに参加していた。
それはそれはまあ、楽しそうに姉君の手伝いをしていたらしい。
とか何とか言っているうちに、エルデ様もユルシュ様も成人し、さて降嫁なさるかと思えば、まるでその気配が無い。
まあ、エルデ様は長子だから、ということもあるが、ユルシュ様すらその気配が無いのだ。
飛び越えて、三つ下のクイデ様の方に先に縁談が来たくらいだ。
ただ、どうにもこのユルシュ様のご実家の侯爵家というのが私の動ける範囲からすると謎だったのだ。
第二側妃を出した有力なイムスイ侯爵家というのは、海に面した縦に長い領地を持っている。
そこで漁業と船舶を使った貿易関係で大きな利益を上げていると。
その利益は民に還元され、イムスイ侯爵領の民は他の領地より全体的に豊かな生活を送っているという。