「えっ」
「のろけ以外の何があるというんですか」
「え、ちょ、待って」
「要するにお好きなのですね」
「えええええええええ」
「違うんですか?」
「そんな、でも、あの」
ええと、と過去のことを思い返しているようだ。
「だってそうじゃないですか。そうそう人のことを誉めない非常に批判精神が旺盛なクイデ様がここまで一個人を誉めること自体希でしょうし、その上何かもらって嬉しいとかじゃあお返しに何かしてあげようとか思うなんてこと自体、もう相手を思いっきり特別扱いじゃないですか」
「そ、そりゃそうだけど……」
「確かその次期侯爵って方はおいくつでしたっけ」
「ちょうど十歳上だったかしら」
「そうですね、クイデ様は割とお母様にもお父君にも放って置かれた感が大きいと思うので、結構歳上の頼れる方はお似合いですよ」
「そ、そうかなあ。でも、年下過ぎないかしらね」
「いやいやいや、ああいう地だと、確か私の養父曰く、若い時に嫁ぐのが普通なので、クイデ様くらいなら、向こうの平均よりちょっと上くらいでしょう。まあちょうどいいのではないですか?」
「ちょうどいい? 本当にちょうどいい?」
何か実に必死だ。
「えー…… と、それで刺繍で何か作ったのですか?」
すると黙って懐から一つのものを出してくる。
刺繍で作った細かい模様の飾り。
そこに革紐をつけてある。
「うわ、綺麗ですね!」
「でも向こうの方達のものは模様に意味があるっていうから、作ったものの、あげていいものか迷って」
結局渡せないまま持っているということか。
何ってまあ、可愛いことだ。
「まあどんな模様でもいいじゃないですか。というか、一応模様を真似して作ったんですよね?」
「記憶で、だけど」
「だったら向こうに嫁がれた時、そう言ってお渡しなさいな。意味が間違っていたらごめんなさい、でいいんですよ。違うのだったら正しいお守りの模様を教えて欲しい、作るから、と言って」
「本当にそれでいいの?」
「まあそうそう怒るとは思いませんね。それで怒る様な男でしたら、『何って器の小さい奴!』って戻ってくればいいんですよ」
「戻っていいのかしら」
「まあ私の目からすると、夫になる次期侯爵様がどうであれ、クイデ様はかの地が気に入って、それで帰って来ないことになると思うのですが」
「夫はどうあれ土地に惚れ込むと」
「何となくですが」
「何となく」
「だって私なんて十年足らずで、もう少しで娼婦になるしかなかった貧乏娘がアカデミー出の方の養女になって教育受けて王子様をたらしこみ、罪人となった後なのに、何故か王女様と話しているんですよ? 自分のどうしても耐えきれない嫌なものさえ判っていれば、それ以外は何とかやっていけるというものですよ」
なるほど、とクイデ様は妙に納得してくれた。