洗って絞って干して~という作業をしている時に、クイデ様がぼてぼてと歩いてやってきた。
や、と彼女は私に無言で手を挙げた。
私は籠一杯の洗濯物をロープに取り付けながら、その状態で話を聞くことに。
「あ、もし良かったら、そこの靴下を付けていってくれませんか?」
「え? どうやって?」
「はいこうやって」
一つをロープに木製の洗濯ばさみで留めて見せると、彼女は何だか楽しそうに付け出した。
ここに居る人間は常に入れ替わり立ち替わりしているので、作業をしている女が一人増えてもあまり気にならない、ということがある。
「これで乾くんだ」
「乾くんですよ」
「どのくらい?」
「今日のお天気だったら半日ってところですねえ」
「そんなにかかるの!」
「そんなにかかるんですよ」
ふうん、と彼女は感心した様に作業を続けた。
靴下が無くなり、タオルが出てきたので、今度はその干し方も教えた。
「要は風を当てる面積が広い方がいいのかしら」
「そういうことです」
「じゃあこうじゃいけないの?」
彼女はぎりぎりのところまでを二重にし、あとは一重になる様に取り付けた。
「それも悪くないんですけど、洗濯ばさみが風に負けたらすぐ落ちますからね」
「成る程、やっぱりそれなりに理由があるんだな」
そう納得していた。
「ところで今日は私に一体?」
「ああ、兄上から聞いたとは思うんだけど、私の結婚が早まったのよ」
クイデ様はそう言った。
「早まったとは聞いてますがね、いつですか?」
「来月」
「……それは確かに早いですね」
「いや実は私、この話、破談になると思っていたんだけど」
「あー……」
そこは言葉を濁した。
何と言ってもこのたびの事件の首謀者の一人の娘ということは、既に嫁ぐ予定の帝国の侯爵家には伝わっているだろう。
「でもならなかったんですよね」
「そこよ」
ぱん、と勢いよくクイデ様はタオルを引き延ばした。
「どうして破談にならなかったのか不思議で!」
まあまあ、と私は彼女をなだめた。
「そもそもクイデ様としては、この結婚は嫌なのですか? 破談を望んでいたんですか?」
「いや、私早くこの国出たかったから、相手のことは多少何でも目をつぶるつもりで乗り気だったわ」
「だったらいいじゃないですか。ちなみにそのお相手とは会ったことは?」
「ある」
「どういう方ですか?」
「ご兄弟でこちらに挨拶に来られたのよ。もっと内陸の方だったから、皆立つ前に馬に乗ってた様なところですって」
「クイデ様馬お好きですからいいじゃないですか」
「で、やってきた時に向こうの女性の普段着とかくれたのだけど、それがまた着やすいのよ」
「はあ」
「ほら私達こんな長いずるずるしたスカートで何でもするじゃない。だけど、向こうの侯爵のところでは、まず下履きとしてズボン履いて、その上にざっくりと綺麗な刺繍をした、膝丈くらいの上着を身につけるんですって」
「動きやすそうですねえ」
「そう。実際一度身につけて見せたら、相手の侯爵になる予定のひと、よく似合うって言ってくれて」
ん?
「私あまり、宮廷で何か着て似合うとか言われたこと無いのよね」
むむむ?
「と言うか、小間使い達が誉めてもやっぱりそれって今一つお世辞に聞こえるじゃない。私自身、ドレスって着づらいし、何か今の流行の色とか似合わないし、鏡見てもしっくりこなくて」
「別にクイデ様のドレスを似合わないと思ったことは無いですが私」
「でも似合うと思ったこともないでしょ」
「ありていに言えば、そうですね」
「貴女はそういう正直なとこがいいわ」
成る程。
「まあだって、今更ですよ。私は今は罪人で今ここに居るのも楽しいですが、それでも刑罰の一つだし、だったら今更何を言ってもどうということもなく」
「お兄様にはあれだけ上げ上げしていたのに?」
「セイン様に対しても別に、無茶苦茶上げたりはしてませんよ。ただあの方が普段言われていない長所を指摘しただけです」