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第11話 洗濯をしながら養父の風呂のはなしを思い出す

 翌々日、お天気も回復して洗濯日和!

 井戸の周りにずらりとテーブルを持ち出し、その上にたらいを乗せる。


「いやあ、洗濯板はやっぱり立って擦ると腰が痛くならないでいいねえ」

「本当、何で今まで台を持ってくるって思いつかなかったんだろう」


 ねえマリウラ!

 と先輩方が嬉しそうに私に言う。


「いやいやいやそれは習慣の違いだけですよ~ 私が昔居たところではそうやっていたというだけですから~」


 そうなのだ。

 ここでは洗濯の時にたらいの前に這いつくばって洗濯板でごしごしとやっていた。

 先輩方は時々立ち上がっては腰をとんとんと叩いていたけど、そりゃ当然だ。

 ちなみに私が小さな頃居たランセム領では、井戸の側に台を持ち出すだけではない。

 たらいの底に穴を開けて、そこにフタをつける、という工夫もされていたのだ。

 そうするとたらいを持ち上げなくとも一気に水を流すことができる。

 まあそれは、子供だった私には非常にありがたかった。

 住む町が変わった時、井戸の周りで洗濯をしている女達を見て私は驚き、養父となったデブン氏に聞いたことがあった。


「ああ確かに、お前の言う通り、その方が力を使わなくて済むなあ。位置エネルギーが……」


 そこからはやや面倒な話になったので忘れたが、要は、重い物を持ち上げるには大きな力が必要になる。

 力を使わないで済むならその方がいいよね、ということだ。


「けどこの町で今そういうことを言っても角が立つだけだ。それが役立つ時まで気に留めて覚えておくといい」


 ちなみに養父の居た流刑地では、ほとんどの季節では洗濯自体、直接肌に付けるもの以外されなかったそうだ。


「水はあった。雪や氷が年柄年中あったからな。ただそれを溶かすのに時間がかかる。だから上に着るものは夏季にまとめて洗うものさ」


 そう言えば、と手を動かしながら思い出す。

 風呂はどうしたのですか、とも。


「いやそれはたぶん王都よりよく入っていたと思うぞ」


 それは驚いた。

 お湯で身体を洗うというのは、水が潤沢に使えないと無理だ。

 チェリは川が近くにあることから、水路が早くに発達した。

 それ故に井戸の普及も早かったらしいが、場所によってはそうもいかない。


「湯に浸かる訳じゃなかったからな」


 蒸し風呂だったのだという。


「部屋全体を暖めて、汗が出たところで垢を落とし、その後で一気にお湯で流すというものさ。大きな施設があってな。時間を決めて皆集まって一気に入った。向こうの生活は厳しかったが、あれは悪くないと思った」


 場所が変われば色々変わるよね、と私はここに来て養父の言葉をよく思い返す。

 ラルカ・デブンという私の養父は、おそらく私に通常以上の教育もしてくれたのだと思う。

 それはあの過酷な地で生き延びてきたひとの知恵だったのだろう。

 私は私で、それまでの生活よりはまし、な中で、使えると思ったことはできるだけ覚えておこうと思ったのだろう。

 使うかどうかはともかく。

 ただあまり私はあの地には行きたくはないな、と思う。


「顔はあまり湯では洗わなかったなあ。いや、そうすると顔の脂が取れてしまうだろう? 冷たいと乾燥していてな。荒れるんだよ。皮脂は大事だぞ」


 そう言われてはね。

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