「其方は犯罪者と言っても道具の類いだ。そしてその道具としての部分においては、私よりずっと良くできておる」
正妃様はそうおっしゃった。
「だから其方がセインを慰めることができた様に、私に陛下を少しでも気楽にできる様に相談相手になってもらえないだろうか」
「正妃様はとてもお人好しではないでしょうか……」
「そんなことは無い。其方がここで何かしようと思えば、すぐに扉の前の兵士達は其方の首を刎ねるだろう」
それはそれで本気なのだろう、と私は思った。
だが、少し待って欲しい。
「正妃様は私がセイン王子を慰めた、とおっしゃいますが、それはどちらの意味でしょうか? 話の流れ的には気持ちを慰めた、と聞こえますが」
「無論気持ちだ。確かにセインとある程度の接触をしていたのは、私の配下からも報告はあるが、それでも其方、きちんと一線は引いていたろう?」
「恐れ入りました」
私は深々と頭を下げた。
そう、セイン王子が何より私に引っかかったのは、私の容姿や態度より、慰めてくれる相手だったということだ。
外見はまあ、出会う際の一つのきっかけにすぎない。
彼が私に夢中になったのは、彼の話を私が飽きもせず聞いていたから、ということが大きかった。
「ともかく聞き上手になれ」
そう養父は言っていた。
「そして相手が欲しがっている言葉を探せ」
とも。
セインが欲しがっていたのは、第一王子として、少しでも敬ってくれる言葉だった。
彼は案外ちやほやされていなかった。むしろ、第一王子としては不思議なくらいに軽んじられていたと言っていい。
それが何処に起因するか。
話してみてすぐに判った。
彼と国内の話をしている時はまあいい。
なのだが、帝国の話や、他国の話を話題に入れると、何か周囲は奇妙な表情になるのだ。
彼は自分の信じていることをそのまま口にする。
だが周囲からは「何かおかしい」という態度を取られる。
あくまで態度だ。
直接言葉でたしなめられる訳でもない。
それに彼自身、たしなめられる程の言葉を発した訳でもない。
ただ微妙におかしいのだ。
そしてその周囲の反応に苛立つ。
私はその愚痴を聞く。
まあそれもしばらくはその繰り返し程度で良かった。
だが、辺境伯令嬢への露骨な嫌味やら悪口などはさすがに露骨だった。
私はできるだけそういうことは言わない様に、と柔らかく柔らかく言ってきたつもりだが、彼はそれすら怒った。
皆間違っている、とばかりに怒鳴ることもあった。
あまりにも令嬢が自由きままに宮中を闊歩していることにも苛立ったらしい。
直接彼女に「その服は何だ!」と言い放ったこともある。
令嬢は「私の地方の普段着ですが」と悠々と答えていた。
基本的に、宮中はより高い地位の者ほど、気楽な格好をするという習慣がある。
気楽とは言え、非常に上等な衣服なのだから、下働きには見えない。
彼もその意味では楽な格好をしていたが、彼女のそれは予想を遙かに超えていたのだ。
「私はあの格好はとても楽で良いと思った」
正妃様はそうおっしゃった。