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第8話 不器用な正妃様と③

 何でも正妃様は、十五の時に嫁いで以来、ずっとその口調だったのだという。

 そして何年かしても子供ができないということで、ひたすら公務に集中し、側妃を迎える際にも協力は惜しまなかったのだと。


「だが決してそれで気持ちが揺らがなかった訳ではない」


 何でも正妃様ご自身は、陛下に対しては最初から好意をお持ちだったそうだ。


「優柔不断なところかおありだが、私のことも気遣ってくださる。側妃を入れる時もいちいち誤って下さった。子を産めないのだから仕方が無いと私も言う他無かった」


 ただ、第一第二側妃には義務的に通っている様に思えたので、ある程度余裕を持っていたのだが。


「セレジュにだけは、私は酷く嫉妬した」


 こうおっしゃった。


「だが陛下のセレジュに対する視線に対し、セレジュの視線がとても虚ろであったので、私は非常に混乱した。このたびのことで、陛下がどれだけ一人相撲をなさっていたのかよく判った。私は実はほっとしている。さすがにあんなことを考えていたとは予想だにしなかったが」


 正妃様からしてみれば、王族に嫁いだ者が国を揺るがそうとするなど想像もできなかったということだった。


「いえそれが当然なんでしょう? 私にしても、こんな大それた話だとは思いもしませんでしたし!」

「だろうの」


 正妃様はため息をついたものだった。


「しかし私はセレジュの視線を知っていたのだ。なのに陛下にそれを意見することもできなかった」

「それは当然です。正妃様は誇り高い方ですから、そこで下手に第三側妃様の悪口を言ったら、陛下にそう思われる、とお思いになったのでしょう?」

「おお、其方はやはり理解が早い」


 ……この繰り返しだったのだ。

 で、これを言っていいのか、と思ったのだけど。


「正妃様、とてもとても失礼と存じ上げますが、貴女様には腹心の友なり部下なりという方はいらっしゃらないのですか?」

「無いのだ。残念ながら」


 ふう、と再びため息。


「私は正妃たろうと十五の時から――いや正妃になると決められた時から、陛下以外、皆平等に扱うことを心がけてきた。それが最も自分にも王室にも国にとっても良いことと考えて。そして特に側妃を入れる様になってからはその考えを強めた。だが私が少しでもセレジュへの嫉妬を陛下にお伝えしていたら、何か変わったのではなかっただろうか?」


 どうだろう、と私は考える。

 正妃様とセレジュ様の価値は、陛下にとっては全く異なるもので。


「時期を間違えていたら、正妃様のお立場も悪くなったのでは」

「私もそう思う。できるだけ場をそっとしておきたかった故、私はひたすらに静かに静かにしていた。だが」

「正妃様、もうそれは起きてしまったことでございます」


 私は無礼承知で言葉を遮った。

 いやもう無礼もへったくれも無い。そもそも罪人に愚痴をこぼしに来たこと自体おかしいのだ。


「そして正妃様、今は正妃様ご自身の判断力が落ちていらっしゃることにお気づきですか? そもそも私に相談や愚痴をこぼすこと自体、もし私がまだまだ何処かに罪人の連絡網とかあって、正妃様のその思いを情報として買い取るところへ渡すとかお考えになりませんでしたか?」

「そう…… だから、とりあえずここにする、ということまでは、私も考えた。だがマリウラ、其方逃げるつもりでもあるのか?」


 それを言われると辛い。

 いいえ、と私は率直に答えた。 

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