そして今日もまた、こんな天気に関わらずやってきているという訳だ。
「よしっ」
干し終わった。
次の仕事は何があったかな、と思うがこの男が居る際には院長に切りがつくまで話を聞いてやる様に、と言われている。
「で、今日は何なの?」
「うん、妹のことなんだけど」
「クイデ様の?」
彼が妹という場合、異母妹のアマニ様やトバーシュ様のことではない。
このお二人なら彼は名前で呼ぶ。
「結婚か早まったんだ」
「宜しいことじゃないですか」
「国外なんだが」
「この国でぐちゃぐちゃ言われるよりいいに決まってるじゃないですか。そもそもクイデ様はこの国には合わないですし」
「合わないかな」
「母君とよく似てらっしゃるなら、そりゃ合いませんよ」
これは養父との話で聞いたことなのだが。
チェリ王国は温暖で作物もよく取れ、天災も少ないことから、変わらない日々を望む気質が強い、とのことだった。
「ただ隣のトアレグは、少し南に行っただけなのに、ともかく何かと天災に襲われる。特に水害だ」
それで数少ない高地での作物としての、茶や芥子の栽培が結構な外貨稼ぎの元となっているという。
一方で、災害が多いから、対応するための技術とか、常に帝国寄り、内側の領土をもう少し広げられないかと交渉したり、時には移住する者も多いのだと。
「俺が居た辺境は、そもそも農作に向いていない。だから鉱山資源を売りさばいて、遠方から食物を輸入するしかない。だから俺はその活用法と、あと、交通網を何とかしないか、という話を伯に問われてしたことがある」
だがチェリは、なまじ住みよいだけ、何もしないのだそうだ。
「クイデ様は帝国の貴族に嫁するのでしょう? お決めになったのはどなたですか?」
「決める時に意見したのは、セルーメ氏らしい。彼がああなった今、どうだろう、という話もあるのだが、決めてずいぶんになるし、向こうからも特に破談ということも無いし」
「その相手の方と、クイデ様はお会いになったことがあるんですか?」
「何度か」
「……だったらいいじゃないですか。破談にして来ないということは、いらっしゃいませ、ということでしょう? この国で罪人の娘という目で見られるよりは、とっとと外に出してあげた方がいいと私は思いますけど」
「エルデ姉上もそうおっしゃっていた」
「そうですね。それは女王としての判断としても正しいと思いますよ」
「だから、行ってしまうのかなあ、と」
「……何ですか、単に寂しいってことですか」
「寂しい半分、羨ましい半分かなあ。クイデとはきょうだいと言ってもさほど仲良かった訳じゃない。あれは俺の方が母上に少しは贔屓されていると思っていた様だ。まあ結局俺の方が酷い扱いだったから、と言っているが」
「クイデ様は自分にはまだまだ判らないことが沢山ある、って言える方ですからね」
「ああ。それにセルーメ氏は、デターム氏よりもっと色々外のことを教えていたらしい。婚約者の国は何でも、乾いた大地が広がるところだという。帝都ともまた違う文化を持ってるとか」
「そういうところへ逃げたいのでしょう」
「……」
「無理ですよ。貴方にはそういう生存能力がありませんから。風来坊のセルーメ氏が助言したのなら、そういうところで何かあった時に生きていく術も、クイデ様に教えていったのだと思いますが、貴方はこの国で一生暮らす様な教育しかされてませんからね」
「そうだな。それじゃ、やっぱり臣籍降下かな」
「それも駄目でしょう。貴方には商才も無いですから」
「言うなあ……」
「大人しく飼い殺されていてください。政治も貿易も、向いていません。だったら大人しくしている中で何かできることをしている方が世のため人のためですのよ」
「そうか」
そう言うと彼は立ち上がった。
「それじゃ、しばらく飼い殺されることに専念する。あ、ところで妹が会いたいと言っていたから、近いうちに来るよ」
何ですって!