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第3話 見捨てられた王子と②

 彼に誤った知識を植え付けたデターム氏はその後、国外に逃亡したと聞いた。

 帝都で将棋大会に出てその場で仲間だったセルーメ氏と、あともう一人、第三側妃の侍女だった女と共に自害した、と。

 ちなみにこれは救貧院へ毎度毎度寄付をしにやってくる貴族が教えてくれた。帝都の、その時期の新聞をどさっと置いていってくれたのだ。

 その貴族は、宮中で見たことがある様な無い様な。

 ともかく皆そのひとが置いていった帝都の新聞の挿絵に夢中になっていた。

 皆が皆、文字が読める訳ではない。

 特にこの救貧院で働く人々は、満足な教育など大半受けていない。

 ここは働く意欲はある、だけど身体が多少弱い、とか格別な腕が無い、身体を売るのすらもうできない、とか通常の社会でなかなか食べていくのが難しい人々に、ちょっとした仕事と寝るところと食事を与える場所なのだ。

 私の様な犯罪者や、犯罪の被害者を受け容れても居ることに関しては、果たしててこれでいいのか? とも思うけど。

 そう、健康で若い私に対しては「こんなところに…… 何やったんだい?」という目は充分あった。

 ここに来る若い娘なんていうのは、犯罪者か犯罪被害者が大半なのだ。

 そして「犯罪者」の方は大概ここの規則とかに耐えられず逃げ出す。

 まあ追われることはない。

 彼女達の身分を保証するものもないからだ。

 もう次に行く道は見えている。

 「被害者」の方は、ここで手に職を覚えて自立して出ていくこともある。

 たまに寄付にやってきた金持ちに見初められて引き取られて行くこともある。

 無論その場合、正式な妻ではなく愛人だろうが、その辺りは誰も気にしない。

 私は基本的には「美人局の片棒をかついだ女」というイメージで見られている。

 間違いではない。相手が相手だっただけで。

 だから最初の数日はひそひそと何かと噂された。

 だが私が「何をすればいいですか!」とばかりに勢いよく仕事をもらって、意欲を見せたこと。字が読めるから、ということですらすらと新聞を読んだことをきっかけに、とりあえずの場は掴んだ。

 何せ新聞を「すらすら」読める者は滅多に居ないのだ。

 ちなみにこの手の場の掴みように関しては、養父となっていた本名ラルカ・デブン氏のおかげだ。

 彼は彼で、かつて流刑地で自分の立ち位置を確保するのに大変だったらしい。

 元々は学生だったし、しかも思想関係だったことから、流刑地では当初苦労したらしい。

 そしてその経験から、新たな場に行く時にはどうすれば良いのか伝授してくれた。

 今はまた本名に戻り、流刑地に戻されているらしい。

 彼自身は名乗っていた元々のランサム侯爵を殺した訳でもない。

 だから罪とされたのは、流刑地の脱走と身分詐称の二つなのだ。

 流刑地の脱走は基本的には重い罪らしいのだが、養父は向こうで鉱物資源の開発に関してずいぶんと携わっていたらしい。

 だったら殺すよりは厳しい地で使い潰すのが一番だろう、というのが帝国のやり方ということだ。

 もう一生出ることはないだろう、と別れる前に、養父は言っていた。

 だから私は彼に対してこう言ってある。


「私が面会に行くまでは生きていてください」

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