宮中を震撼させた国家転覆未遂事件。
私、マリウラ・ハットゥン(旧姓に戻した)はそこに加担した罪で現在、王都の外れの救貧院に住み込みで働いている。
「マリウラさーん、雨降ってきたわー! 洗濯ものしまって――!」
「はいっ!」
たたたたた、と素早い動きで辺り一面に張ってあるロープからシーツをはがし、両手に抱えて屋内に走った。
「いやー何とかあんまり濡れずに済んだねえ」
「本当ですねえ。えー、でもまだ畳むには湿ってますから、何処かにとりあえず吊しましょうか」
「頼むよー」
はい~と私は笑って手を振った。
あの事件から半年が過ぎていた。
事件そのものは大きく、王都では相当騒ぎになった。
ただ、私に関して言うなら、思った程重い刑罰は科せられなかった。
と言うか、正直甘すぎると思った。
何と言っても、第一王子を誘惑する係だったのだ。
私は彼の国際認識がおかしいことを判っていた。
その上で、それを見ないふりをして、よりによって私達のチェリ王国の宗主国である帝国の使者「辺境伯令嬢」に「婚約破棄」を言い渡させた。
まあ自分は悪女ということで投獄させられるなり、最悪殺されるだろうなあ、とは思っていた。
ところが名前を戻して庶民の立場で救貧院でずっと働け、という命令だった。
いやもう何って甘い刑なんだろう、と私は驚いた。
辺境伯令嬢曰く、自分もあくまで武器の一つに過ぎないから、とのことらしい。
まあそれはセイン王子も同じらしい。
でもあっちは王子で私はもともと庶民だし。
だったらどんなことされても仕方がないなあ、と思ってたんだけど。
「庶民に戻って、厳しい教育でつけた知識等を生かして働くこと。給金も休日も殆ど無いですよ」
それでもどちらも全く無い訳ではないし。
仕事の買い出しついでに町中に出ることもできる。
甘い!
甘いったらありゃしない!
……いや、そうでもないかな。
「たとえば貴女自身が王子を堕落させて自分の私利私欲に使おうとしたなら、それは確実に貴女自身の罪で、斬首刑にでも車裂きでも石打ちでも、まあご期待に添うようにします。
けどただの色仕掛け要員にそこまでしても仕方ないんですよ。
正直時間も手間も勿体ないし。
だいたいそういう刑ってのは見せしめで庶民やら何やらのガス抜きに使うのが有効なんですが、貴女そこまでそもそも庶民に知られても居ないし、セイン王子にしても大して慕われてもいないじゃないですか。
だったらいっそ、短期間でそこまできちんとした令嬢に見える程訓練された要員でしたら、殺してしまうのはもったいないですよ。
宮廷では貴女は憎まれる対象かもしれないですかが、宮廷以外に置けば使えるのですし」
……立て板に水式に説明された。
要するに、使える人材はとことん使おうって魂胆にも感じる。
まあいい。
そもそも私が某悪事に荷担したのは、安定した生活のためであって他の何のためでもない。
何にしても、かつての酒場暮らしになるよりずっとマシだ。
あのまま行っていたら、下層の娼婦一直線だったのだから。
なので今の生活は私にとって充分満足できるものなのだ。
……ただ三つをのぞいて。