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41 渡しておく指輪

 一日目で雑魚が一気に減り。

 二日目で各グループの準決勝までに絞られる。

 さすがに二日目の途中で、バーデンもセレジュも相当ぐったりとしていた。


「お前は元気だな」

「元気って訳じゃないけど、外は慣れているからな」

「それよね」


 セレジュは砂糖をまぶした揚げ菓子にがりがりとかぶりつきながら俺を恨めしそうに見る。


「どうだ? 行けそうか?」

「頭がもう回転しまくって大変よ。このまま踊り出しそう」


 そっか、と俺は答えながら、内ポケットから一つの包みを出す。


「何」


 セレジュはじっとそれを見る。


「指輪?」

「ああ。今のうちに渡しとく」


 その指輪は、ただの金属の輪としてはやや太めだった。

 こうはめて、と俺は例を示す。


「この真ん中を強く押すと、……まあ、刃が出てくる」


 ごく、と二人は唾を呑む。

 そこに何がついているかは、既に判っていることだった。


「決勝戦でこの三人で結果が出れば、その時。そうでなかった時には、自己判断で使い方を決めろ」


 黙ってバーデンは受け取り、判った、とセレジュは言って一番合う指にはめた。


「まだ今日で負ける訳にはいかないわね」

「明日は皇帝陛下も臨席するということだ。どうせなら見てもらうくらいが上等だ」


 俺はほんの少し、もっと物騒なことを考えないでもない。

 全くもって、思い残すことが無い時というのは、「人として」ろくでもないことを考えてしまいそうだ。

 そして何とか無事にその日が終わった。

 二人とも指輪を見ながら、何とか使わずに済んだな、と顔を見合わせた。


 翌日。

 準決勝の相手に、それぞれ向き合う。

 総勢九人。

 予定されていた訳ではないが、セレジュの相手の中には女が一人含まれていた。

 そして俺のところには。


「やあ兄ちゃん、久しぶりだな」


 円盤将棋で捕まった男ではない。

 が、昔俺が野良将棋を帝都であれこれやっていた時の相手の一人だ。


「元気でしたかね」

「いやもう歳でね」

「ご冗談を」


 もう一人は軽口一つ叩かず、ひたすら盤を見つめている。

 最初に取る陣形を考えているのだろう。

 そう考えつつ席に座っているうちに、皇帝陛下のお出まし、という声がかかり選手達は皆起立する。

 ただその皇帝陛下は、後ろにもう一人客人を連れていた。


「!」


 俺はその姿を見て目を見張った。

 後から煌びやかな衣装をまとってやってきたのは、バルバラだったのだ。

 彼女の視線が俺達にも注がれる。

 なるほど、俺達がここに来るのを知っていたのか。

 確かにセレジュの残した「遺書」にはひたすらに将棋を打ちたかった、ということが書いてあったろう。

 だがそこから更にこの場所を割り出すとは。

 俺はセレジュを伺う。

 すると、彼女はいっそ挑戦的ににっこりと辺境伯令嬢の方に笑顔を向けた。

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