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40 ミツバチ杯開始

 半月後、六角盤ミツバチ杯が開催された。

 特殊ルールのため、参加者は通常よりは少ないとされる。

 それでも帝都に集まる帝国及び属国からやってくる参加者数は二千人がところを越えていた。

 会場は皇宮前広場に設置され、そこにずらりと盤の大きさに合わせた丸テーブルと椅子が並べられる。

 どんな参加者も同条件だ。

 それに文句を言う者は参加する資格が無い。

 野外開催のため、天気もまた、競技者にも観戦者にも気になるところである。

 受付を済ませると、テーブルと席の番号が配られる。

 そして大看板に描かれた勝ち抜き戦表の番号の部分に名前を書き込む。


「よし、皆ばらばらだな」


 バーデンは両手を握りしめてそう言った。

 言われてみれば、三つのグループができている勝ち抜き戦なのだ。同じグループに入っていたら、最終的に三人で対戦することはできない。

 その前に勝ち進まなくてはならないのだが、と俺はちらと思ったが、勝てないことなど二人とも考えてはいない様だった。

 まあ実際そうだ。

 勝ち進まないことには、将棋を続けられない。

 偽名登録もすぐに判ってしまうだろう。

 俺達は、負けた時が終わりなのだ。

 だったら、できるだけ長く長く対戦をして、最後に皆で当たって終わりにしたい。

 馬鹿馬鹿しい程綺麗な終わり方だが、それができれば本望だ。


 無論これだけの人数があれば、時間もかかる。

 一日では終わらない。

 貸し出されている日傘を肩に置きながら、セレジュは真剣に、そしてできるだけ速攻で勝ちを取っていた様だった。

 終わると他の対戦を眺めたり、日陰で休んだりしている。

 参加費がそれなりにかかるので、この時の飲み物は自由に飲める様に配られる。

 ただし食事は持参か出店での買い食いだけだ。

 一試合ごとにセレジュは出店に行って甘い揚げ菓子を買っては頬張っていた。

 もうそれが似合う少女でもないのに、と俺はちょっと苦笑する。

 そう。もう最初に会った頃から三十年近く経っているのだ。

 三十年! 

 何って長い! 

 そしてこの瞬間しかもう無いのだ。

 あの時、伯爵が彼女を第三側妃にと送らなかったら? 俺達のどちらかと結婚させていたら?

 そうすれば良かったか?

 判らない。

 だが少なくとも、俺達が手を汚す様なことにはならずに済んだだろう。

 いや、それ以前にチェリの国王が彼女を選ばなければ。

 いやいや、伯爵夫人が、彼女に淑女を演じさせて当時の王太子の前に出さなければ。

 こうしなければ良かった、というのはやった後では思っても仕方がないことだ。

 セレジュの両親も、ランデル侯爵一家も、麻薬に手を染めてしまった人々も、もう元には戻らない。

 それでも、あきらめることができなかったならば。

 本気でやるしかないのだ。

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