*
――今までのことを思い返していたら、少し眠ってしまっていたらしい。
俺の目を覚まさせたのは、枝を一定の間隔で打つ音だった。
慌てて窓を開けて外に身体を乗り出す。
ランタンを掲げたバーデンの姿がそこにはあった。
間に合ったんだな、と俺は安堵した。
食事を摂るために広間に向かうと、彼等の姿があった。
服も庶民の商人のものに替え、遅くて申し訳ない、と言いながら夫婦ということで偽名を使って部屋を取った様だ。
「食事は皆ここで摂ってもらいますよ」
だったら今、とばかりに二人は空いていたテーブルに座った。
時間的にはやや混み出した頃だったので、俺は相席いいですか、と白々しくも言って近くに座った。
彼等はそれまでの道のりの厄介さを「商人ふう」に言い換え、俺はそんな二人の話を黙って聞いていることにした。
後は周囲の話にも耳を傾ける。
やはり王子のやらかしたことは大きい、この先チェリはどうなるんだ、麻薬がどうとか発表されたって、そんなもの流通してたんかよ、とか話す旅人達。
ともかく俺はひたすら黙って話を聞く。
何でも「第三側妃」は王子をひっぱたいた後に毒をあおって死んだらしい。
見事な親だな、と彼等は噂をする。
俺はファルカに対し、スープをすすりながら心中冥福を祈る。
ここまで生きてくれて本当にありがとう、と。
翌日、時間をずらして俺達は出立した。
行き先は無論帝都だ。
そしてそれはできるだけ急がなくてはならない。
一日でできるだけ遠くまで走る。
長旅に慣れていないセレジュにはきついだろうが、そこは少々我慢してもらわなくてはならない。
何せ俺とバーデンは指名手配が回っている。
噂話の中でもその名は口にされた。
セレジュはファルカの名でこの先の道中は通して行くし、ファルカが俺達の協力者であることはそうそう知られては居ない。。
そして一日走り続け、次の次の町から合流した。
馬車の二人は夫婦設定、俺はその友人ということにした。
夫婦ともう一つの部屋を取ることにして、早々に食事にしたが、そこで宿の主人に俺は訊ねた。
「帝都の将棋の大会ってさ、何が一番近いの?」
何と言っても目的はそれなのだ。帝都で行われる大会。
参加登録し、出場している間は正体がばれたとしても捕らわれることはない。
「今一番近いのかい」
宿の主人は、料理や酒を出すカウンターに、何やら脇から帳面を持ち出しばらばらと開く。
「えーっと、今やってるのが四角盤十六マス古都路杯かな。今募集中なのが、六角盤ミツバチ杯」
セレジュの顔がぱっと上がった。
「今なら間に合うのかしら」
「奥さん将棋好きなのかい? いや、出たいのかい?」
「ええそうよ、まずい?」
「まずかないよ。帝都の将棋大会は誰だって参加者を待ってる。……ってまあ俺も将棋は好きだし、このへんじゃ、ちょっと鳴らしたもんだがな。奥さん一局どうだい?」
セレジュは俺達と顔を見合わせた。