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32 手を汚す決断

「本家がやばい」


 あちこちに奔走する日々の中で、そう親父から知らせを受けた。

 何でも、本家を継いだ分家筋の男が投資に失敗したということだった。


「マクラエン侯爵家が伯爵家の領地をまるごと引き受けるらしい。その際、向こうの一族とも我々は付き合うことになるらしいが……」


 親父は手紙の中で不服そうだった。


「そもそも投資の話自体が、何処から来たのかも俺等は知らなかったしな。

 分家筋の若僧め、ここで一発何かしらの功績をと思ったのか、唐突に資産が転がり込んできて何なのか、ともかくとんでもないことになってる。

 だがお前は勝手にしておけ。お前からのあちこちの情報が入っているおかげで、うちはそれなりに先に対策を取っておけた。

 セレーデは元気だ。このところこのくらいの女の子がいなかったから、母さんも可愛らしくて賢い子に夢中になっているぞ。

 ただ乳母が時々具合悪そうにしているが。かかりつけの医師と薬はあるからいい、とのことだが本当に大丈夫か?」


 本当に親父には感謝しかない。

 この先俺がしようとしていることに対し、申し訳ないと思う。

 セレーデは確かにこれまで体系立った勉強はしていないが、おおもとは賢い子だと思っていた。

 刺繍の腕は母親譲りで上手い。

 その辺りも母さんの気に入るところだろう。

 十かそこらの子でも、処世術というものはある。

 セレーデはあの家で母親を守りつつ楽しく暮らすための自分の役割を良く知っている。

 少なくとも帝都郊外の家に女二人で居るより安全だし、食うことに困らない、母親に無理な仕事をさせなくても済むのだから。

 それにしても、伯爵本家がそうなったとなると、分家筋の若いのはどうなっただろう。

 ――使えるだろうか。

 俺はふと思った。

 今早急に何とかしなくてはならないのは、脱走して来るデブンを据える場所だ。

 辺境伯を「伯爵」と考え違いしているセインにとって、上に見ることができるのは侯爵以上。

 チェリ王国内で、侯爵は十数家あるが、その中でも滅多に外に出て来ない、存在を殆ど忘れられている様な家を俺は探してみた。

 結果、その対象にできるのが、ランサム侯爵だった。

 殆ど親戚付き合いもせず、一家と領民だけで回している。

 そこを乗っ取るにはどうすればいいか?

 養女を入れて教育係を入れて、そこから出す、という手もあるが、ランサム侯爵はどう反応するだろう?

 第一案として、俺は話し合いで名前だけ借りる養女を入れるというもの、そして第二案として。

 ランサム侯爵一家を消すことを考えた。

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