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29 次の一手に取りかかる

「そう言えばデタームの三男坊、役目が終わったら飛び地に住み着きだした様だな」


 戻ってからしばらく、親父は俺の外での話を聞きたがった。

 俺は俺で、本家伯爵家や、分家のその後も知りたかった。

 その中でバーデンの家の話も出る。


「飛び地」

「ああ。まああそこはもともとトアレグとの国境線ができるまでうちの持ち分だったからな。まあ飛び地と言っても山と山の間の川一つ挟んだ程度だから、繋がっていると言ってもいいんだが」


 さすがにその話はあまり知らなかった。

 もともとうちの一族の領地自体が、トアレグ王国との国境近く一帯なのだ。

 その中の一角が、たまたま向こうの所有になっている大きめの川の向こうになっているということらしい。


「で、その飛び地の管理がいつも面倒だ、と言って皆やりたがらなかったんだがな、お前の連れの三男坊、あれが今のお勤めが終わったらそこに住みたい、と言ってるんだと」

「へえ」

「へえってお前、幼馴染みだろう?」

「まあ幼馴染みには今度聞いてくるよ」


 バーデンはまだセイン王子の教師を続けている。

 だがその任期もそろそろ終わる頃だ。

 ならばそろそろ次の手を打たねばならない、と俺はその時思った。

 ちなみにバーデンはその後、飛び地を利用してトアレグとの密貿易をすることになるのだが、その辺りは俺には詳しいことは判らない。

 彼奴は宮中に出入りすることで、何かしらの趣味界隈の知り合いを貴族達の間に作っていた。

 俺よりその類いの付き合いが上手い彼奴のことだ。何を国内に入れるにせよ、それを広める算段はつけているのだろう。



「阿片さ」


 そして久しぶりに会ったバーデンはあっさりそう言った。


「阿片?」

「痛み止めとして医薬品として入ってくるけど、それ以上に麻薬だな」

「成る程。それを広げるか」

「聞いてみるとな、案外一度やってみたい、って貴族は居るんだ」

「物好きだな」

「全くだ」


 俺等は帝都に居た時、中毒患者の姿を見ていた。

 俺は野良将棋の際、彼奴は娼館に通う際。何処かしらにその中毒患者はいた。

 そして娼館の話が出た時に、ファルカとセレーデの話もした。

 同時に、身代わりのことも。


「そうか。そういう駒が一つあるならば、セレジュを国から出すのも少し楽になるな」


 そこにはファルカへの情は見当たらなかった。


「けど本当にお前、娘をそれで引き取っていいのか?」

「母親を死なせてしまう代償だよ」


 考えてみれば、情が当時あったとしても、その後彼女と連絡を取っていたのは俺の方なのだ。

 本命のセレジュと出会う機会が多く、その息子への微妙な教育に夢中になっている今、過去の身代わり女のことはどうでもいいのだろう。

 だから俺は、ファルカの余命が長くないことは言わなかった。

 言ったところで此奴はどうもしないだろう。

 そもそも、ファルカの娘について、「俺の子か?」と一言も聞くことがなかったのだから。

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