ファルカとセレーデを連れて俺は一旦家に戻ることにした。
彼女達のために馬車を用意し、数日間共に過ごすことになる。
その間に、実家に早馬を飛ばし、自分の子供が見つかったので小さな家を用意して欲しい、という知らせを送った。
そして打ち合わせをした。
「今日から必要な時が来るまで、貴女はこの子の乳母という形をとってもらいます」
うなづく母親と俺に、どういうこと、とセレーデは俺にくってかかった。
「あのね、小父さんは小父さんの家から、子供の一人くらい作ってこい、と常々言われてるんだ。だけど残念ながら、それは一人じゃあできない。だったら昔からの友達の、君のお母さんの娘である君を俺の子供にしたいんだ」
「……? それって、母さんと結婚したいってこと?」
「いや、君の母さんにはついてきて欲しいんだけど、残念ながら、結婚はできないんだ。だから育ててくれた人としてついて来て欲しいんだ」
「……」
「判る?」
「……つまり小父さんにも色々事情があるのね」
「そう」
「母さんは無理に働かなくていい?」
「いいよ。ただ君にはちゃんと勉強なりしてもらうけどね」
「小父さん、偉いひと?」
「偉いかどうか知らないけど、一応貴族の次男坊だよ」
「偉いひとだわ」
「うん、だからその娘として相応しいだけのことは学んでもらうよ」
「そっか……」
静かに、だけど様々なことを考えている様だった。
何よりこの子供は母親の体調のことを常に気遣っている。
俺がファルカと話し合っている時も、外に行かずじっとその様子を見守っていたのだ。
「そうしたら、君のお母さんはできるだけ君と一緒に居られる」
ちら、と彼女は薬袋を見た。こちらに関しても思うところはあるのだろう。
「わかった――判りました」
セレーデはしっかりとうなづき、この瞬間から俺の娘ということになった。
無論実家では大騒ぎだった。
「お前女に興味が無いんじゃなかったんだなあ」
親父などそうしみじみと言ったくらいである。
「小さな家、と言ってたが、離れを掃除させたぞ。それでいいか?」
「この子と乳母が共に住めれば充分だよ。本当に感謝するよ、親父」
「いや、正直我が家にはなかなか孫が増えないでなあ…… デタームのとこは結構増えているのに、何かうちの連中は、なあ……」
「デターム子爵のところは沢山家族が増えたんで?」
「ああ。長男次男とも嫁さん迎えて、まあぽこぽこと。あそこまでで行くと、逆に色々騒動は起こりそうだが、うちの連中ときたらなあ……」
兄もだが、弟達にもどうもあまり子供ができないらしい。
「まあ居る子達とは仲良くなって欲しいとは思うけど。ただ、今まで帝都の郊外で質素に暮らしていた程度なんで、そんなに急に騒がないで欲しいな」
「判った判った。おお、この子か。セレーデと言うんだな、ん?」
ふとその名に親父は思うところがあったらしいが、俺はあえて無視した。