翌日、彼女の元に再び出向いた。
「……どうしたんですか、そんな、息せき切って」
ともかく入れてもらう。
「昨日、貴女がかかっている医者に聞いてきました」
セレーデが側に居るから、その場で詳しくは言わない。
医者はこう言った。
「身体のあちこちに、少しずつなんだが、悪いできものができている。乳房とか、腕とか、部分部分に大きなものであったなら切り取ってしまうという方法も取れるが、彼女の場合は、小さなものがあちこちに出来ている」
つまり、とうながすと、医者はこう言った。
「手の施しようが無い。だからあちこちに現れる痛みを軽くする薬や、痛みで眠れないことが無い様にする薬を出すくらいしか、今の私にはできない」
いや、おそらく何処の医師にも無理だろう、と俺は思った。
「発症した時、既に身体は弱っていたから、進行はゆっくりだ。だが、それだけに日々辛いだろう」
そしてどのくらい生きられるのか、という問いには。
「判らないね。こう言っちゃ何だが、この病は健康な身体の方が進みが早いということもあるくらいだ。それこそ、一年かもしれないし、五年保つかもしれない」
ずいぶんと曖昧だが、つまりは身体の痛みと戦う他は、本人の気力次第なのかもしれない、ということだった。
「……ファルカさん、あと五、六年、何としても生きてくれないか?」
「え?」
「貴女の何よりもの心配はこの子だろう?」
「そ、それはそうですが…… 一体、何でしょう」
「この子のことは、俺が引き受ける。だから、貴女に一つ、何としても生き延びて、俺に協力して欲しいんだ」
「この子の……」
「俺はこんな風に、ふらふらとしているから、何処で子供をいつの間にか作っていたとしても、俺の実家はまあそんなものだ、と考えるだろう。それに、ちょうどいい、この子の髪と目の色は、俺に近いだろう? いや、そんなものは、何代前の先祖返りとでも何でも言える」
「でも」
「でも、何?」
「話がうますぎます」
ああ、と俺は笑った。
確かにそうだ。
ただの昔の知り合いが、娼婦の誰の子とも知れないものを、自分の子として引き取るなんて。
「理由は三つ。一つは、貴女が昔馴染みで親友が世話になっていること。二つ目は、一応これでも、地元で親父達が子供の一人でも居ないか、と風来坊の俺の心配していること。そして最後の一つが一番大きいんだが」
はい、と彼女はうなづいた。
「身代わりになって欲しい。それも、命を賭けた」
「命を、ですか」
さすがにそれには彼女は躊躇する。
「そう」
俺は彼女の両肩を掴んだ。
痩せた細い肩。
それにあがなうだけの力もさほどに出ない。
「どうしてもある瞬間に死を選ぶ役割を、貴女にお願いしたいんだ。そのために、貴女にはあと五、六年生きて欲しい」
無茶を言っているな、と俺は思った。
だが彼女は即座に答えた。
「ようございます。承ります」