「今までもお手紙と、送金ありがとうございました。デターム様はそれっきりでしたが、貴方様はずっと気に掛けてくださり」
「いや、彼奴から頼まれていたんだ。奴は国を離れられないけど、俺はあちこち行くから、って」
そうでしたか、と柔らかく彼女は答える。
窓から入る光の関係だろうか、顔色があまり良く無い気がする。
「ファルカさん、何処か身体を壊してませんか?」
「壊している、というか。ああいう仕事上がりで、……」
ちら、と床の敷物の上でじっと膝を抱えている娘を見る。
子供を産んだことで、身体を弱くしたのだろう。
「私は幸運な方です。あの頃共に働いていた女達の中には、病気を伝染されて死んだ者も、借金から逃げて捕まった者も、……まあ、もの凄く運の良い者の中には、客と結婚したのも居ましたが。いずれにせよ、長生きできる職業ではないんですよ」
「医者にかかったりはしていますか? お嬢さんの父親は? 支援してもらうとかそういうことは」
彼女は首を振った。
「父親は判りません。ただ私は幼い頃に家族と別れ別れになって以来一人でしたから、子供ができた時にはどうしても産みたくて。その時、セルーメ様から送っていただいたお金は非常にありがたかっったですわ」
彼女からの返事は期待していなかったから、事情は知らなかった。
そういう時期だったのか。
「彼奴の子ってことは? 彼奴はずいぶん貴女を独占していただろうに」
「それはありません。この子――セレーデは、貴方方が国に戻ってから一、二年した頃に身籠もった子ですから」
「その名前」
「ああ……」
くす、と彼女は笑った。
「あの方が来ると、ついつい昔の思い人の名で呼んでしまう、と言われたんですよ。もの凄く似ている訳ではないけど、それでもぱっと私を見掛けた時、そのひとを思い出したんですって。でもその方、あの方より身分が上のお嬢様だったのでしょう? ちょっと私、いい気持ちになってしまったのです。それで少し帝都風に」
確かに。
彼女は今でも遠目で見ればセレジュとむ似ている。
背格好も近い。
そんなことを考えながら、ぼんやりと彼女と、その周囲を眺めていたら薬袋の存在に気付いた。
「薬――」
「ええ、まあ……」
「見せてもらって良いですか?」
「どうぞ」
中身を見て俺は驚いた。
痛み止めだの、眠り薬だの、そんな類いばかりだ。
「ファルカさん。貴女のかかっている医者は何処ですか?」
「薬袋に書いてあります。……それが?」
根本的治療に使う様なものではない。
痛み止めにしても、相当強いものだ。
「俺、何日かこの辺りに滞在します。また明日か明後日来ますので」
そう言って家を出、馬を走らせた。
行き先は隣町の医師のところだった。