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20 セレジュからの手紙

 俺が王女の教師?

 さすがにその提案はどうか、と思った。

 誰かに教えるなぞ、向いていない。

 ともかくもう一つの手紙を開けてみた。


「お久しぶり。すごく久しぶりだわ。

 腹が立つ程、久しぶりね!

 私は何とか生きているわ。

 何とか息を吹き返したってところね!

 今はあんた、辺境伯のところに居ると聞いたわ。

 凄いところらしいわね。

 羨ましい! 

 何ですって、そちらの令嬢は、平気で馬にも乗ってるんですって!?

 でも確か、辺境伯令嬢というのは、ある種のお勤めもあるからこそ、自衛もできる様に訓練していると聞いたわ。

 その辺り、今一つ情報が入って来ないから何だけど。

 ところでこの手紙を受け取る頃にはバーデンから聞いていると思うけど。

 あんた私の娘の教師をなさい!

 何とか正妃様に条件をつけて、バーデンかあんたを呼び寄せる様にしたの。

 あんたが先に来ていたら、バーデンを娘につけたと思うわ。

 でもね、実際のところクイデにはあんたの方がいいと思うわ。

 だってあの子、本当に私の地そっくりだもの。

 地味な外見をわざわざ更に地味にしようとしているところとか、周囲の人々の動きを見ているところとか。

 私は家では姫君だったから、好き勝手いていたけど、クイデはそうじゃない。

 今となっては、後ろ盾が殆ど無い第三王女よ。

 だから広い広い世界を見せてやりたい。

 でもね、誤解しないで。

 私はあの子達に対して、愛情が持てないの。

 産んだからと言って、絶対持てるなんて思わないで。

 だって、私の子だけど、同時に陛下の子供なのだもの。

 陛下は夏離宮のことをもの凄く綺麗な思い出にしているのよ。

 私が盛大に猫かぶっていただけなのに。

 かぶった猫が大きすぎて窒息しそうになっていたこの頃、ようやく息ができる様になったって感じね。

 一応ね、あんた達が私を置いて留学する前に言ってた、家の中を盤に置き換えて、というのは今でも気晴らしで進行中。

 バーデンには言ってないわ。

 彼は王とは違うけど、私に対してどこかちょっと夢見てる。

 でもカイシャル、あんたは違う。

 あんたは私がどれだけ残酷なことができるか知ってるでしょ。

 お母様を死に追いやったのは私よ。

 私達、チェスの相手として、庭師とも結構気さくにやってたでしょ。

 彼から毒のある植物や石とかのことを聞いていたのよ。

 それを嫁ぐ前にお母様の酒蔵の樽に仕込んでおいたのよ。

 お母様はお父様より酒豪でね。

 自分用の酒蔵を小さいながら持っていたの。

 誰一人触らせなかったのよ。

 私、昔そっと入って触ったら、頬っぺたを何度もはたかれたわ。

 それほどお母様には貴重だったのね。

 その中に、時間が経つごとに溶け出す毒を仕込んでおいたの。

 お父様がそれに気付いたかどうかは判らないけどね。

 私、お父様のことは好きだったわ。

 でもお母様を止めてもくれなかった。

 私の性格を知っていても、側妃となることに関しては、本当に止めなかった。

 それどころか喜んでいた。

 でもね、もしお父様が同じ様な原因で亡くなったとしたなら、私のしたことに気付いたのだと思うわ。

 実家のお母様の酒蔵がどうなったか調べさせたら、お父様が取り壊したって言うし。

 そして私気付いてしまったのよ。

 本当に、場所を盤に、人を駒にして動かせるんだって。

 ねえカイシャル。

 時間をかけた私のたった一つの願いに手を貸してちょうだい」

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