北東の辺境伯領には一月ほど、珍しく長居した。
と言うのも、こちらが色々見聞するにしてもこの領地が広いこと、そして自分が知る前に、向こうからの質問が非常に多かったことがあった。
北東の辺境伯領の広さは、チェリ王国と張るか、少し広いくらいだ。
ただ、人が住める範囲が限られているので人はチェリより格段に少ない。
「流刑者は別計算でもあるしな」
伯はそう言った。
「そちらを見せていただくことはできますか?」
「構わない。ただしこちらの護衛騎士を数名付けることが条件だ」
「と言うと?」
「貴殿一人で行ったなら、すぐに丸裸にされるだろう」
この寒冷地で! と俺は無論承諾した。
「流刑地は思想犯が多い。終身刑の場合もある。こちらではそれなりに労働と、それに似合った対価を出しているが、必ずしもそれを妥当と思っている者ばかりではない。そしてそんな場所に一人でのこのこやって来るものは、彼等のいいエサだ」
「その場合、管理する側では……」
「流刑地は基本、自治をさせている。元々そういうことが好きな人間も多いのでな。それで難しいことを悟るも良し。努力するも良し、だ」
「反乱があったりは」
「無論ある。そういうものを好む体質の者も多い」
体質、ときた。
「だからこそ、うちは護衛騎士の数も多い。うちに詰めている者達も、普段は農地を耕したり狩りに出る者も多いが、いざという時には無言で罪人を斬る」
色々厳しいのだな、と俺は思った。
単純な考えになってしまうのだが、やはりこの気候が最もそれに作用していると思った。
チェリは海や川に面していて、俺達の山側が避暑地になるくらいの温暖な地だ。
だがこの辺境伯領、特に流刑地の辺りは、生きていくのが精一杯という厳しい地なのだ。
「だからこその流刑地なのだ。彼等を縛るものは、人でも鎖でもなく、この自然だ。この地での労働は、それだけで体力を大きく奪う。その中で自治をさせれば管理も最少で済む」
「それでも脱走する者は?」
「たまに居る。だがその場合は帝国全土の指名手配になり、次はもう無い」
次は無い。
死罪ということだろう。
実際付けられた護衛騎士四人と向かった先は、確かに厳しい気候の場所だった。
まず気温が違う。
そして大地の質も違う。
幾つかの労働現場があったが、森林の伐採にしても、鉱物の採取にしても、ともかく力が必要そうだった。
厚手の服は体温を奪わないためのものだが、非常に重い。
その格好で、固い木、硬い土、岩を相手にするのだ。
そんな労働者の中、俺は見知った顔を見つけた。
「……デブなんとか?」
つい上げてしまったすっとんきょうな声に、一人の男が反応した。
あの頃、帝都で思想関係で捕まった奴だ。