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14 帰国

 ちょうど頃合いだ、とばかりに俺達は帰国することにした。

 その頃、幾人かの同期が思想犯として捕まり、北東の凍る大地に流刑になった、と聞いている。

 名前は忘れた。デブなんとかとか言った気がしたが。

 チェリに戻るなら共に、ということで幾人かで大きな馬車を借りて、帰路についた。

 その中には窮理学専攻の、街中を走り回っていたティミド・スルゲンも居た。


「奇遇ですね~」


 眼鏡の下の目の表情が実に柔らかい。


「戻ったら、婚約者と結婚式なんですよ」

「婚約者置いて留学してたのかい」


 バーデンは呆れた様に言った。


「彼女は天文台の娘ですから。星を見ながら待っていてくれると言ってくれました。手紙もずっと。ほら!」


 ぎゅっ、と紐で綴じられた手紙の束が一番大切な手荷物の中に入っている。ずいぶんな厚さだというのに。


「お二人はご結婚は?」


 そう、帝都で過ごしているうちに、俺もバーデンもいい歳になっていたのだ。

 いくら次男三男としても、その話は出るだろう。俺は元々、終わったとしても帝国をあちこち歩きたい、とは言っていたが、それもまた、本家のごたごたが終わった後だろう……

「まあぼちぼちな」

「そうですか。そう言えば、家族にお土産を買いましたか?」

「まあ一通り。な?」

「ああ」


 家族への土産。

 そして幾つもの将棋盤。

 セレジュに見せることができるかも判らないのに、俺達はともかく帰国が決まったとみるや、買いあさっていた。

 六角盤、五芒星盤、六芒星盤、円盤といった絶対にチェリでは見ないだろうもの。

 昔親父達が仕事で行っても買ってはくれなかったもの。

 たぶん親父達はこれが将棋盤だとは思っていなかったのだろう。

 そう言えば円盤将棋の大会。

 あれは凄かった。

 知人が出ていたことも、あらかじめ作る駒の初期配置も、そこからの短時間乱戦も、素晴らしいとしか言い様が無かった。

 そしてまた、皇帝陛下からお褒めの言葉をもらった直後――捕らえられていたことも。

 本当に、帝都全土に手配されている様な者でも、勝負がつくまでは見逃してくれるのだな、と皇帝陛下の余裕に感心した。

 きっとチェリの王だったら、集まった時点で選手を調べ、まず捕獲するだろう。

 ちなみにバーデンは、立派な八角盤を見た瞬間、手に取っていた。

 八角盤は二人から八人という様々な対戦ができるものだ。

 何度か俺もバーデンとこの盤で四陣営ずつ持っての対戦をしたことがある。

 時間がかかる。頭の回転がたまらない。だが面白い。

 軍でも頭の訓練として将官クラスに用いられているのがこの八角盤だという。

 最も現実の戦場に近いのだと言われている。

 やがて空気が変わり、空の色が変わり。

 俺達は故郷へと戻ってきた。

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