俺は慌ててバーデンを探した。
「なあおい、バーデン何処だ? バーデン・デタームは!」
同じ寮住まいの奴にあちこち訊ねた。
「たぶんあそこじゃないかなあ。啼鶯館」
娼館の一つだった。俺は取るものも取りあえず、そこへ走った。
お兄さん寄ってらっしゃい、の手を振りほどき、バーデンが居るか、ということを訊ねた。
「今お休みよ」
そう言って出てきたのは、青みがかった灰色の髪、青い目の女だった。
無論造作はまるで違う。だがその二つは。
「急ぎなんです。起こしてでも何でも。カイシャルが怒ってるって言ってやって下さい」
はあい、と彼女はふらふらと部屋へと戻っていった。
そして寝ぼけ眼の奴を連れてくると、またね、と唇にキスを一つ落とし、送り出した。
「あれがお前の馴染みの女か?」
「ああ」
「似てるな」
「似てねえよ」
「何と似てるって、俺まだ言ってないよ」
ともかく、と近場で茶やコーヒーが飲める店に入った。
チェリと違い、帝国ではコーヒーもよく飲まれていた。
それに合う濃い甘い菓子もあった。
奴は眠気覚まし、とばかりにコーヒーを注文し、俺は普段通りに茶を頼んだ。
「で、どんだけすげえことが起こったんだ?」
「……」
俺は黙って手紙を渡した。
奴はざっと目を通し――やがて表情が険しくなった。
「あの夫人が?」
「ああ。それで、ここに原因とみられることが書いてある」
親父の手紙によると、何でもセレジュを嫁がせてからというもの、伯爵夫人は急に疲れやすくなったのだという。
だがそれだけだった、と。
それだけだが、じわじわと身体が弱っていって、この年一番の寒い朝、外で倒れているのが見つかったのだという。
弱っていた身体に、急な寒さが堪えたのだろう、と医者は判断したという。
そして更にそこに付け加えられていたのが、その死によって、今度は伯爵自身も気落ちして弱ってきている、ということだった。
「どういうことだ?」
「わからん。だからお前を呼びに来た」
奴は注文したコーヒーが来ると、その中に水を入れ薄め、がっ、と一気に飲み干した。
そしてお代わり、と給仕の女の子に言った。今度はミルクをたっぷり、と付け加えて。
そして自分の頬を両手でぱん! と叩いた。
「彼女の仕業だと、バーデン、お前思うか?」
「わからん。確かに俺等は焚き付けた。だけど、そこまでするか、という気もする」
「そこまでしない、とお前は思うのか?」
「わからん。思いたいがな」
俺は――ありうる、と思っていた。
だが確証は無い。
そして確証が無いなら余計に「そう」とも思えてしまう。
ともかく親父に伯爵家のことをもっと詳しく教えてくれ、と俺は頼んだ。