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11 六角盤ミツバチ杯のことを聞く

 帝都の生活は続いた。

 そして親父からの詳細な手紙も。

 セレジュは第三側妃となってすぐに懐妊したという。

 王宮の外に出ることは殆ど無く、親父達どころか、実親である伯爵夫妻もそうそう会うことがないということだった。


 さてその頃から俺達も、先輩に連れられて花街に出かけることが時々あった。

 俺に関しては、完全に付き合いだった。

 元々欲望が薄いこともあったし、暇な時にはやっぱり街中に出て野良将棋に興じていたというのもある。

 家の方でチェスが強い庭師が居た様に、庶民の中にも各盤各ルールの将棋の強者は無論潜んでいる。

 俺は自分の研鑽もあるが、いつか何処かでもしセレジュにまた会えた時のために、逐一新たに得た情報を書き付ける様にしていた。

 分野が違うが、フィールドワークをする学生とは時々顔を合わせた。窮理学を専門にしているティミド・スルゲンという奴も居た。


「いやあ、帝立天文台も素晴らしいですが、民間の数学者にも素晴らしいひとがおられるのですよ!」


 いやもう楽しい楽しい、とばかりに彼の様な留学生はそれぞれの目的の中で走り回っていた。

 中には過激思想に走る者も居たようだが、その時点では気にしていなかった。

 そんな日々の中、町で野良将棋に興じていたら様々な大会の話になっていった。


「……あー、そう言えば今年は五芒星杯の年だなあ」

「五芒星盤の大会ですか」

「そうそう。あの盤はあまりやる奴が居ないから、出ると案外学生さん、いい線行くかもなあ」

「でも五芒星ってことは、何人で対戦するんですかね」

「形が形なんで、これは一つの試合で五人だな。要は峡谷にそれぞれ里がある五つの部族が戦う、という様なものだからな。中心が乱戦になる」

「面白いけど、さすがにそれは俺にはまだまだですね」

「そうか? だが誰でも出ていいんだぞ、帝都の将棋大会は。どんな身元でも、偽名でも参加できるってんで、まあー怪しい奴が大会の時には揃ってくること揃ってくること!」

「そんなんで大丈夫ですかねえ」

「や、無論警備側も、そういう時に将棋馬鹿の指名手配犯を捕まえる好機って訳で、待ち構えている訳さ」

「わざわざそういうところに来ますかねえ」

「兄ちゃんはまだ若いからなあ。来るんだよ、それでも」


 その時相手していた人が、後に円盤太陽杯において優勝したはいいが、指名手配犯としてその場で捕まったというのは、後の話だ。

 ともかくまだその頃の俺は、そこまでするか、という気持ちだったのだ。


「俺は一番好きなのは六角盤ですね」

「六角盤か。だったらミツバチ杯だな」

「もしかして、駒縛りが厳しい……」

「ああ。六角形はミツバチの巣にも使われてるってんで、六角盤には通常駒の大会と、このミツバチ縛りがあるんだ。こいつは五年にいっぺんだったかな。三人対戦だ」

「五年ですか…… 俺が帝都にいる間には出られなさそうだな」

「まあ、いつか出てみるがいいさ。だいたい大会については、どんな町でも参加者募集の貼り紙があるもんさ」


 なるほど、と覚えておくことにした。


 それから半年くらい後になり、親父から伯爵夫人が死んだ、という知らせを受けた。

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