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10 帝都にて・父子爵からの手紙

 帝都!

 セレジュのことは心配だったが、俺達はともかく留学先の寄宿学校の生活にすぐに夢中になった。

 目に映るもの全てが珍しい。

 各地から来る学生は、時には同じ学年でもまるで違う歳の場合もある。

 習慣の違い、食べ物の違い、そんな様々なことを乗り越えつつ、ともかく俺達はひたすら勉学に打ち込んだ。

 そしてその傍ら、帝都における将棋事情をできるだけ細かくセレジュに書き送った。

 だが返信は次第に減っていった。

 当初は俺達の書いた様子に喜ぶ彼女の姿が目に浮かぶ様だった。

 だが時間が経つに連れ、次第に三度に一回、五度に一回、と減っていき――

 ある時、俺の父親から俺達二人宛に、彼女に手紙を送るのを控える様に、と指示が来た。


「お前達がセレジュ嬢と本当に仲の良い二人であることは判る。

 だが今、セレジュ嬢には王宮に入る様にという命令が来ているのだ。

 第三側妃となる様に、と。

 側妃になる令嬢に男の影は許されない。たとえお前等が本当にただの友人だったとしてもだ。

 本当に残念だ。

 セレジュ嬢はお前等と居る時、本当に幸せそうだったのに。

 先日祝いの言葉を述べに伯爵邸に出向いた時のセレジュ嬢の表情は、まるで人形の様だったよ。

 私はお前等のどちらかが彼女の婿になれば、という野心が無い訳ではなかった。

 デタームも私もどちらでもいい、ともかくそうすれば我々は安泰、そしてセレジュ嬢にとっても気が楽であろうと。

 あの姫は普通の男に嫁いだり婿を取ってもきっと何処かで疲れ果てる。

 その原因が何処にあるのかを我々は知っていてもどうにもならない。

 だからお前等どちらかがついていてくれれば、とお前等に対してとは違う親目線で見てもいたのだ。

 だが伯爵本人はともかく、夫人の意欲が凄まじい。

 そして伯爵は夫人を抑えることができない。

 全くもって残念なことだ。

 こちらからは第三側妃となったセレジュ嬢の様子は判る範囲で知らせようと思う。

 それとも聞きたくもないだろうか?

 情けない父達を許して欲しい」


「あーもう! お前の親父さん! 謝られたら怒ることもできないじゃねえか!」


 バーデンは机をがっ、と殴った。

 俺も怒りはあった。

 だが少し考え、とりあえず返事を書くことにした。


「どうしたんだ一体」

「気になることがある」


 俺は親父に早馬で返事を送った。

 彼女の様子も無論だが、彼女が去った後の伯爵家の様子もつぶさに教えて欲しい、と。

 そしてもう一つ。

 できるだけ多くのことを身につけてからそちらへは戻る。

 だがその後は、しばらく帝国内をふらふらとさせて欲しい、仕事は何でもいい、と。


「お互い次男三男で本当に良かったよな」


 バーデンは俺の頭を軽くこづいた。

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