やがて帝都の寄宿学校へと俺達が留学する手はずが整った。
「絶対手紙を沢山送るのよ! でも、もしかしたら、手紙そのものが止められるかもしれない……」
どういうことだ、と俺達は彼女に訊ねた。
「お母様が私への手紙に敏感になっているのよ。今だって、一応時々近くの貴族からお茶会にどうかとかの誘いとか来ているらしいんだけど、どうもお母様、それを私に渡す前に止めているのよ
「貴族の付き合いやら結婚は親が決めるのは確かに、そうだけど……」
「セレジュの様な令嬢にはきついよなあ」
なまじ色々出来てしまうだけに。
「だったらどうだ? この屋敷を盤に見立てりゃ」
不意にバーデンは彼女にそう切り出した。
「この屋敷を?」
「そう」
バーデンは立ち上がって、腕を大きく広げた。
「セレジュは今、母君に駒の様に動かされそうになっているんだろ? だったら、逆に動かしてやる方法を考えたらどうだ?」
「つまり、お母様にら動かされるんじゃなくて、お母様を動かしてみろと?」
「伯爵夫人だけじゃないさ。この屋敷の全部。乳母から小間使いやら執事やら皆使って、母君の野望を阻止してみたらどうだ?」
セレジュはしばらく頬杖をついて黙り込んだ。
そんなことできるのか? とバーデンに俺は目で問うた。奴は首を軽く回した。どうだろう、とばかりに。
「そうね」
やがてセレジュはつぶやいた。
「何もしなければ、お母様の野望通りになってしまうわ。向こうの方が駒の扱いに長けているのは仕方ないけど、嫌なものは嫌なのだから、できるところまでやってみるわ」
「いや、それじゃ負けて当然って感じだろ」
俺はつい口に出していた。
「何? カイシャル」
彼女は軽く眉間に皺を寄せた。
普段、バーデンよりは彼女の行動にずけずけと反応しない俺がこう言い出したので何だと思ったのだろう。
「俺等が見てきたセレジュは、負けるために駒を打って出なかったよ」
「……」
唇を尖らす。
おそらく自覚はあったのだろう。
「できるところまで、なんて初めから負けを見込んでるじゃないか。弾ける覚悟で皆を駒にして動かしちゃどう?」
「あんたが私にそう言うとはね。ま、でもカイシャルの戦法からしたらそうなるかしら」
俺の戦法。
「だってカイシャル、あんたってバーデンより大人しい顔してるけど、決めたとなれば本当に容赦無いじゃない」
「あーそうだそうだ。俺もそう思ってた。俺の方がその辺り、ちょい弱いんだよなあ」
「え、そんなこと思ってたの」
「意識しない奴はこうだから」
「そうよね」
二人は顔を見合わせた。
「バーデンは結構あきらめが早いわよ。だから見切ると最終的な損害が一番少ない方法に変えていくじゃない。だけどあんたは最後の最後まで戦うもの。どっちが怖いかって言えばあんたの方だと思うわ」
「現実の戦いにおいては果たしてどうか、と思うけど、後が無い戦いで、ともかく相手をどれだけ攻撃するか、ということになったら、俺はお前に絶対勝てないぜ」
二人とも俺のことをそう思ってたのか、と改めて唖然とした。