何これ、と俺もバーデンもその普段より細かい枡目に仰天した。
「駒の数も種類も増えるのよ。逆に消えるものもあるわ。帝国の広い地域で、色々な形に発展したのを、帝都ではまとめてるっていうのよ!」
目をきらきらさせて彼女は説明してきた。
「え、じゃあこの十二×十二用の駒もあるの?!」
バーデンは即座に聞いていた。
「あるわよ、見せてあげる!」
彼女は棚の上から、種類の違う駒を持ち出してきた。
それを皮切りに、俺達はひたすら三人で将棋にはまっていった。
「だがな、将棋もいいが、勉強も武芸もちゃんとするんだぞ」
俺とバーデンそれぞれの親父は、令嬢と仲良くなったことを喜びつつ、一応そこは釘を刺してきた。
それ以来、俺もバーデンも親父達が国外に仕事で出る時には何かしらの変わった盤と駒、その参考書をお土産にしてくれる様に頼んだ。
他のものは要らないから、と。
というのも、このお嬢様はそれから少しして、そろそろ将棋に夢中なのを母親に咎められる様になってきたというのだ。
「だから今私必死なんだから」
勉強には手を抜かない。
俺達は三人同じ歳だったのが幸いした。
学問やマナーやダンスといったものは皆で共に学び、絶対に手を抜かない様にしていた。
「でもあんた達はいいわよ」
「何で?」
「だって学問とマナーとダンスの他って、武芸だけじゃない。私なんか、そこに音楽と手芸が加わるのよ」
確かに俺達にとっての音楽は「してもしなくてもいい」ものだった。ただその代わり、勉強の幅が広げられた。
「だからその広がった分野の時間を音楽と手芸に回せばいいだろ?」
バーデンは呆れた様に彼女に言ったものだった。
「嫌よ! あんた達のこれから教わる分野って面白そうなところばっかりなのに!」
ちなみに広がった分野というのは、地政学やら歴史やら。
特に歴史の中でも戦史にずいぶんと時間を費やすことになっていた。
「私の先生だけだったら絶対教えてくれないところだもの。あんた等の先生の話聞けるなら絶対続けるわよ」
そう彼女が言うのは、地政学や戦史は将棋のそれに通じるからだ。
特に、六角盤を仕入れてからの彼女は、古来の兵法に興味を持った。
そのために歴史も学びたがった。
「だけどそのことを下手にお母様に言ったら、あんた達と一緒に居ることも止められるだろうし」
「そうだな。俺も再来年には留学の話も出てるしな」
「うちもだ」
「でしょう? だったらあんた達が居る間に、できるだけ基礎を学んでおきたいのよ」
俺達はうなづくしかなかった。
実際、六角盤が手に入ってからというもの、三人対戦ができる様になり、彼女の熱の入りようは凄まじかった。
見ているだけということがない、この三人戦に彼女は夢中になった。
無論俺達もだ。
「そう言えば、六角盤には、ミツバチ縛りというものがあるんですって」
彼女がある日言った。
「お母様の目を盗んで、この間お父様が帝都での試合のことを話してくれたんだけど、駒の使い方が凄いのよ」