「お前も呼び出されたのか」
「まあな」
そしてまずは伯爵の前に。
伯爵はにこやかに俺達を迎え。
「いやあ、うちの娘に最初の獲物を差し出してくれたそうだなありがとう」
から始まり、最初の狩りで二匹捕らえるのは偉い、とか友情は素晴らしい、とか、勉強はどうかな、とか色々言ってきた。
俺等はさすがに本家の伯爵様ということで「はい」「いいえ」「ありがとうございます」の三つをひたすら言っていた気がする。
正直、その辺りは大人になってみたら判る。ただの枕詞だ。
「さて、今日二人に来てもらったのは他でもない。頼みがあってね」
ほら来た、と俺等は身構えた。
「いや、うちの娘がなかなか気難しい性格でね。どうも友達ができにくくてねえ…… 父親としてはどうしたものかと思っていたんだよ」
そうなのか、と俺は驚いた。
が、直後には「そうだろうな」と思っていた。
まず本家の姫だ。
それであの性格だ。
まあ、分家筋の令嬢達は遠慮するか、逃げ出したくなるか、どうしていいか判らなくなるだろうな、と思っていた。
「大概の分家の同じくらいの歳の女の子達が泣かされてしまうくらいでね。だけどこの間の狩りの時、君等にはいい表情を見せていた、と乳母が言ってきたんだよ」
「ええっ?」
確かあの時は乳母さん、なかなか俺等には渋い顔をしていたと思ったのだが。
「あんまりにも友達が誰もできないのもこの先、人付き合いの上でどうか、と思っていたのでね。勉強友達になってくれないかな、と」
「勉強ですか?」
バーデンは訊ねた。
「基本は勉強。あと、遊びも。本当に、友達になってやって欲しい」
伯爵は苦笑した。
気難しい娘に、常日頃困っていたのだろう。
「あ、そう言えば、君等、女鞍に乗ってみたんだったね、どうだった?」
「どうだった、って…… 怖かったですよ。なあ?」
「ええ。確かにあれは走るものじゃないですよね」
「まあ、そうだろうな。できれば普通の鞍にズボンで乗せてやりたいんだが、あれの母親がそれは絶対に駄目だ、と言っていたなあ……」
俺はその時は何も言わなかった。
ただ、バーデンはこう言った。
「ポニーのうちだけなら乗せてもいいんじゃないですか?」
伯爵はおっ? という顔で奴を見た。
「いや、まだそれこそ落ちても、さほど怪我しないじゃないですか」
「おいバーデン!」
俺は奴の袖を引っ張った。
「大きな馬になってからそれで勢いよく走らせて落馬すると大変ですが、今のうちでしたら、まだ大きな問題にはならないんじゃないですか?」
「高さ…… うーん……」
伯爵は苦笑しながら、どうだろうねえ、とつぶやいた。
まあ後になってから知ったことだが、要は女の子が跨いで、嫁ぐ時に何かあったどうするの、という話だったらしい。
「まあ、妻と相談してみるよ。でもまあ、君等には部屋の中での遊びで付き合ってもらえると嬉しいんだがな」
「部屋の中の遊び?」
「うちの娘は、将棋が本当に好きでなあ…… はあ…… 何で私、教えてしまったんだろうなあ……」
ぼやく彼は、本気で困っている様だった。