何が嫌なのか、とよく通る声の方に俺とバーデンは向かった。
同じ歳の俺達は、親同士に引き合わせられて以来の仲だった
何かというと一緒に遊んだり学んだり遊んだり剣や弓の稽古をしたり、遊んだりしていた。
この「遊んだり学んだり」のところ。
俺達はありがたいことに、だいたい能力が近かった。
だから何かと張り合うのが、ともかく楽しかったのだ。
それだけじゃない。
お互い親に紹介された時、次男だ三男だ、と判ったときには、にっと笑って親指を立てた。
やったな、家を継がなくて済むぞ、と。
またそれが通じる辺りも。
それは後になってお互い駄目になるのだが、まだその頃は真面目に自分達は自由に人生を送るんだ、と思っていたのだ。
さてそんなガキ二人は、その日、一族郎党集合して親睦を深める恒例の森での狩りに参加していた。
ガキはガキらしく、まだポニーに乗っての参加だ。残念ながら大きな馬にはまだ乗せてもらえなかった。
仕方ない、と二人してぽくぽくと森の中で、覚え立ての弓矢の腕をお互い何処で披露しようかと、良い場所を探していた。
そんな折りに、声が耳に飛び込んできたのだ。
俺達は透き通る声の主を探すべく、がさがさとその方向へと歩みを進めた。
するとそこには男物の乗馬服を着た少女がやはりポニーの前に立って居た。
「どうして普通の鞍を乗っけてはいけないの!」
「お嬢様、そんなこと言わずに…… 皆様ドレスで参加なさっているのですよ。どうしてもこれでないと駄目なのは前々からこのアリセも申しておりましたでしょうに」
どういうことだ? と俺はバーデンと顔を見合わせた。
「あれじゃないか? 鞍、鞍って言ってるだろ? あの子」
ポニーの上には横座り用の女鞍が付けられていた。
「それに乗ると凄く怖いの! 男の子のだったら、怖くないのに……」
「そんなこと言われましても。さあさあお嬢様、まずはその服をお着替えなさいませ。頼みますよ、このままではアリセが怒られます」
乳母だよな、乳母だなあれは、と俺等は顔を見合わせた。
「けど何であの子、そんなに嫌がるんだ? 怖いって」
「何だろな」
俺達はいつも好奇心には勝てなかった。
猫をも殺すというそれに駆られ、つい前のめりになってしまった俺達は、茂みから馬の顔を出してしまった。
ぶるるるるる。
ごめんごめん、と自分の愛馬をそっと撫でる。
すかさず声が飛んだ。
「誰っ!」
後で三つ編みにした髪が勢いよく揺れた。
「あ、すみません」
「黙ってみてました。ごめんなさい」
「貴方達誰よ。私はセレジュ。セレジュ・レルケ」
「バーデン・デタームだ」
「カイシャル・セルーメ」
無論彼女が名乗った時、本家のお嬢様であったことは判った。
だが彼女の視線は、そこで俺達に下手な敬語なんて使うな、と訴えかけていた。
「セレジュお嬢さん、何で女鞍は嫌なんだ?」
先にバーデンが問いかけた。
するとセレジュはきっ、と青い瞳をこちらに向けて、睨みつけてきた。
「あんた、女鞍で乗ったことないでしょ」
「そりゃ……」
「一度乗ってみればいいわ」