立ち上がり、彼は自分の元婚約者に問いかけた。
「どうなるとは?」
バルバラは冷静な声で問い返した。
「自分のせいで、母は自害しました」
「セイン殿。貴方は自分が裁かれる程の価値があるとお思いですか?」
え、と彼の喉は引きつった。
「貴方はただの道具でした。道具を裁く程、我々は暇ではありません」
「では…… 俺は……」
「しかし間違えないで下さい。貴方には母君がつけ込む隙があったということを。それは王族としては非常に危うい点であるということを。現国王殿下が、セレジュ様のことをよく調べずに王宮に入れた、それが彼女の憎しみの原点になっております。少なくとも、彼女の中では」
「母上の中では……」
「貴方は私に対しても、表面だけで判断した。それは貴方だけでなく、お父上にもつながる部分です。ですが、貴方という反面教師というものがあれば、貴方のきょうだいは下手な真似はしなくなるでしょう。貴方はその視線をずっと背負って生きてください。貴方に関しては、以上です」
がく、とセインの膝が崩れた。
*
やれやれ、とようやく解放された貴族達はそれぞれ連絡された家からの迎えで戻っていく。
「スルゲン教授!」
「テルガ男爵、貴方は居残りですか」
「引き継ぎが済めば、すぐにでも帰りますよ。うちの医院には常連が多いのでね」
「確かに! それにしても貴方方とはこれから仲良くしていただきたいものです」
「そうですな、我々の歳はだんだん健康にも不安が出てくるものですし」
ははは、と男達が話している中、夫人達もそれぞれ手紙の宛先を交換する。
レイテ侯爵夫人は、何故かマレンナが気に入ったらしく、今度領地に遊びに行かせてくれ、とやはり手紙の宛先を交換していた。
「何で私なのかしら?」
はて、とナルーシャは苦笑するが、何かしらあの夫人のアンテナにひっかかるものがあったのだろう、と思う。
「さて、順番がやっと回ってきそうだよ、帰ろうか」
「ええ」
スルゲン夫妻は辻馬車の方へと歩いて行った。
*
「何とか終わったな」
「終わりましたね」
辺境伯令嬢は、次々に人が出て行く光景を窓越しに眺めながら疲れた様に吐き出す。
「さすがに三年は長かったな」
「そうですね。貴女は二十歳、私も二十五になってしまいましたよ」
「でもまあ、その程度でよかったじゃないか。シェイデン、私の本来の婚約者殿よ」
ひょい、とバルバラは護衛騎士の肩に手をかけ、そのまま飛び上がる。
慣れた様にシェイデンと呼ばれた護衛騎士は、彼女を受けとめる。
「ああ、あとどれだけ残務処理があるんだろう」
首に手を回しながら、令嬢は大きくため息をついた。
「あと少しですよ。少なくとも三年はかかりません」
バルバラはそれを聞くと、目をぱちくりとさせる。
「それもそうだな」
三年待ったのだから、あと一週間が一月だかは大したことではないのだ。
そうしたら――