バルバラはそこまで読んで、一度切った。
「そこまでが第一の遺書です。動機に関するものですね。実際、セレジュ様の部屋からは、六角盤や、暗号で書かれた手紙等も出てきました。ただし、この場合の暗号は、底本と数字で表されるものではなく、六角盤や八角盤を文字表に用いて位置で文字を表したものでした」
「絶対それじゃ判らないよ……」
「なあ」
二王子は少年らしくその方法に興味は持った様だったが、あまりの盤面の細かさに自分達には無理だ、と思ったようだった。
「さて二通目になります。ここからは、その国をひっくり返すために何をしたか、が書かれております。しかし動機よりは簡単なものです」
そして二通目を取りだした。
「まずそれぞれが王子王女の教師となってすぐのことです。
自分達が置かれている状況に気付きました。
教師というのは、教え子に信用があるならば、誤ったことを教えても判らない、ということです。
そこでこの国の次代の国王に最も近い我が子に対し、他のことはともかく、この国の立ち位置に関して
他のことは正しいことを教えています。
それだけに、その一点だけが誤っているということに、当人も周囲も気付かない、ということです。
ですがそれは、時間をおいた罠となります。
もし彼が王位に就いた、もしくは帝国に対し外交をする様になった時、根本的な掛け違いをしていることに誰も気付かなかったら?
王もしくはその後継者の発言は重大です。
デタームは本当に細心の注意を払って、セインに対し、つじつまの合う間違いを教えました。
クイデに関しては、通常の教育をそのまましました。
私と似て、放っておいても考える子だからです。
セルーメはクイデのことを気に入っていたので、彼の知っていることはできる限り教えたことでしょう。
ただそうすれば、きょうだいの仲は何処かで壊れるとは思っておりました。
たった一つでも、明らかで強烈な間違いをしている兄に対し、妹は確実に敬愛の念を無くすでしょう。
そして、教師の期間が終わった後に、デタームは茶の愛好者とつながりを持ち、トアレグの麻薬ルートとつながりを持ちました」
「なるほど、そこで利き茶仲間との関係が出てくるのか……」
コイゼル子爵家のトルクはつぶやいた。
惜しいな、と彼は思う。
良い利き茶の舌を持っているのに、と。
「一方、やはり期間を終えたセルーメは、アカデミー時代に直接ではないが知っていた、思想犯達六人に手紙を送りました。
その中で唯一反応したのが、ラルカ・デブンでした。
ちょうどセルーメが手紙を出した頃、彼は流刑地で妻子を亡くし、自暴自棄になっていた様でした。
そこで暗号――これは普通に底本を使ったものです――を使い、脱出方法等を示唆、セルーメの仕業と判らない様にいくつかの場所や人間を経由して、既に襲撃させてあったランサム家に入り込ませました」