「母上のだと?」
セインは声を上げた。
「お母様の――あ、でも確かに、見覚えはあるわ」
クイデもつぶやく。
「お二人とも、やったことはありますか?」
「俺は無い。チェスだけだ」
「私はカイシャル…… セルーメ先生から四角だけど枡目の数が十二×十二の将棋? を教えてもらったことがあります。先生が旅だっていってからは誰も相手にならなかったのでやっておりませんが…… それも遊戯盤だったんですね!」
「そう、先ほど、唐突にクイデ様、貴女の先生の名も出してしまいましたが。今回の件については、セレジュ様、デターム子爵、セルーメ子爵、この三人が、この国を相手にしてこの将棋を行っていた様なものなのです」
「セレジュが? いや、令嬢、だが、セレジュは自害して」
「自害なされば、口無しです。国王殿下」
ばっさりと彼女は斬り捨てる。
「しかしあの時、セレジュはセインに対し、貴女が帝室派遣官であることを知らなかったことに関して、怒っていたではないか。それは、彼女もそれを知らなかったということでは?」
「それは時間稼ぎのブラフであったのでしょう」
細かく段に仕切られたワゴンから、バルバラは昨晩床に並べていた資料を一つ取り出す。
「時間稼ぎに過ぎない、ということはセレジュ様もよくおわかりだった様ですね。お部屋を捜索させていただきましたら、遺書がございました。それも何通も」
「遺書が」
王ははっとする。
「まずは、今回の件についての目的とあらまし。目的は、……何と言ったら良いのでしょうか。国自体をひっくり返す、ことだった様です」
「!」
息子も娘もそれにはさすがに声を呑んだ。
「国家転覆だと……?」
「いえ、そうではなく、本当に国をひっくり返す、ごたつかせる、他国の干渉をを許させようとする状態にする、という完全な転覆の前段階です」
まだよく判らない、という顔の王に対し、令嬢はふう、と肩で大きく息をつく。
「……私も正直、ただの国家転覆である方がとても判りやすく言いやすいのですが。それに正直、とても言いづらい部分もあります。セレジュ様のひどく個人的な感情も含めたものですから。ですので殿下、そしてセイン殿、クイデ様、あなた方の母上のしたことをこの場で本当に全て言っていいのか、迷うところなのです」
「今更」
クイデはぽん、と言葉を投げた。
「私は構わないわ。あのお母様が、本当は何を考えていたか、なら白日の下に曝して欲しい」
「お……い? クイデ?」
「お母様が策士だということは私がよく知っているわ。どこまでの策士だったのか、私としては知っておきたいの。私はその血を受けついでいるだけにね。お兄様はお父様の方の血が濃いでしょうが、私は嬉しくもないけど、お母様似の様ですから!」
毒づく娘に、国王の顔色が変わった。