「それにしても」
この日、自死したということで第三側妃の部屋から押収したもの、特に文書、手紙、日記の類いを広げ、確認しながら、辺境伯令嬢バルバラは苦い顔をしていた。
「どうしました」
護衛騎士――昼間王達と共同で作業を行っていた彼である――は、机では足りず床一面に広げた資料の前に立て膝で座り込み、うなっている彼女を見て問いかける。
「何処までを明日の場で言ったものだか」
「そこを上手くやるのが貴女の役目でしょう」
「お前はそう言うがなあ」
ふう、とバルバラはため息をつく。
「まあ、この役目が終われば私も家に戻れる。そうすれば、昔からの約束も守れるというものだ」
「私もぜひそうしたいものですね」
「全くだ。だが、本当にこの第三側妃というひとはな……」
バルバラが広げている押収物は、今回の一連の騒動をほぼ全て説明できるものだった。
「だが、だからと言って、全てが全てこれが本当であるとも限らない。見つかることを想定しての証拠だ、とも考えられる……」
「判らない部分は、聞いてみればいいのではないですか?」
「誰にだ?」
「彼女をよく知る人々にです。王家の人々は第三側妃をよく知っているでしょう」
「それも思った。だがここだ」
彼女は手紙の一つを護衛騎士に差し出す。
「……なるほど。誰かが既に、ある程度見破っているだろうことも折り込み済みではないか、ということですか」
「おそらく彼女の子であるセインかクイデだとは思う。特にクイデだ。私は一応彼女の次期義姉になるという予定だったことで、多少の付き合いはあった。あれは、セインよりずっと第三側妃の血を濃く継いでいる。そして彼女の教師はセルーメだ」
「そこが私には不思議なのですがね」
「何だ?」
「第三側妃は、どちらでも良かったのではないですか? デタームとセルーメ、どちらも――」
「さてそこだ。麻薬ルートとのつながりもある。それを許容できるのがデタームであり、できなかったのがセルーメということではないか、とは私も踏んでいるが」
「探させ、同時に出頭を王国全土に通告しているその二人、どちらかでも見つかればいいのですが」
「いや、どちらか、では困る」
バルバラはびしりと言う。
「どちらも見つからないと、証言はどちらかに都合の良いもの、もしくは『誰か』に都合の良いものになりかねない。だから、見つけるなら二人同時でなくてはならないのだが……」
「第三側妃の遺書全てを信じるならば、彼等三人が、我々よりやや若い頃、ある趣味の仲間であることは調べができていますからね……」
そう、と言いながらバルバラは、床に広げられた押収物の中で、ひときわ異彩を放つ遊戯板を見やった。