一方大広間の方は、時間が経つに連れて幾人かの新たに発作を起こす者が現れていた。
テルガ男爵とその妻の采配により、眠らされた中毒患者は移動及び隔離されていた。
また、部屋にあった所持品を検査した中で、麻薬が出てきた者についても、また別に隔離した。
結果として、上位貴族五十弱家の中から三件、下位貴族二百五十弱家の中から十八件、夕方までに判明していた。
「とりあえず常用している者に関しては、これである程度特定できたと思うのですかが、この先、更に時間が経てば禁断症状が出る場合も出てくると思います」
テルガ男爵は王にそう報告した。
夜が近づき、再び食事が各部屋に分けられる時間となる。
また再び部屋に戻る様に護衛騎士はバルバラからの伝達事項を伝えてきた。
「今現在問題無しとされている方は部屋にお戻り下さい。検査済みの手荷物もお持ち下さい。明日はこの看板通りの時間にやはり集合願います。今度こそ審議の続きをするとのことです」
ふう、と貴族達はため息をつく。
それでも取り調べばかりされるこの場所よりはましだろう。
昼間集まった時とは別の思いで銘々の部屋に足取り重く戻っていった。
その中でテルガ男爵夫妻は護衛騎士に呼び止められていた。
「お手数ですが、貴方方は夜間に何かあった時のために、待機願って宜しいでしょうか」
「無論です。そちらから手配された医者の方々が居るなら合流したいところですが」
審議の最中であるので、それはまだまずいのだろう、と彼は言葉を濁した。
「感謝する、テルガ男爵。貴殿が医師でなかったら、すぐにこの対応はできなかっただろう
王はテルガ男爵に対し頭を下げた。男爵は慌てて恐縮する。
「いえ、自分は当然のことをしたまで」
まさか国王自身が自分に頭を下げるなど!
これまでの彼には想像もできないことだった。
実際テルガ男爵にとっては今回の行動は当然のことだった。
むしろ彼は当初のパーティの方がよっぽど居心地の悪いものだったのだ。
彼等夫妻は男爵とは名ばかりの庶民同様の暮らし、いや、仕事第一の分だけ社交という面においてはともかく苦手意識があった。
そもそも着てきた服も、それこそ夫妻揃って一張羅である。
ただ、男爵位の中で彼等の様に、庶民同様の生活をしている者はこの事態におけるフットワークが軽かったのは確かである。
一張羅は大事にとっておかねばならない。
そこで彼等は借りた動きやすい上着を付けていた訳だが、そのおかげでさっと彼等の手伝いとして、暴れ出す中毒患者をとっさに取り押さえることもできたのだった。
中毒患者は当人だけでなく、配偶者も取り調べのために護衛騎士によって別室に連れていかれた。
配偶者自身もいつ発作が出るか判らないということもある。
所持品の中に現物は無いとしても――いや、現物があれば取り繕うことができただろう。