女達は皆耳を傾ける。
それは自分達の周囲でもよくある話だからだ。
「その小間使いの性格とか資質によるんですが…… それでも、最終的にお母様にとって一番いい状態に、しかも誰も悪くない様な状態に持っていくんです」
「ある意味理想的な形ではないの?」
マレットが訊ねた。
「はい。理想的です。だから、そうなるためにお母様はその小間使いを紹介資料から実際の振る舞い、陰で何を言っているかまでじっと観察するんです。というか、その観察のための要員がお母様には居ました」
横で何となく聞いているセインは、そういう妹も母親をよほどよく観察していたのだな、と思った。
だがその一方で、自分は妹のことなどまるで知らなかった、ということに驚いていた。
「そしてそれらをまとめた上で、盤上の駒の様に動かしていくんです」
盤上遊戯。
それは皆想像できた。それこそ王家の子女にとっては遊びである一方、思考訓練にも。
駒一つ一つにはそれぞれ個性がある。
勝つには、それらをどの位置に置くか。
そしてその盤面にどう揃えるか。
「お母様にとって、小間使いの諍い自体も、時には自分で左右できるものでした。ここでどうこの子を動かして、どういうことをさせれば事態が良くなるか。その際に、その小間使いが失敗することも織り込み済みです」
「ちょっと待って」
タルカは手を挙げた。
「小間使いがこの王宮で失敗するというのは、その子にとっては結構大きなことではないかしら?」
そこでクイデは嫌そうな顔で笑った。
「はい。全くもってそうです。タルカ様も皆様も普通に温情を持っていらっしゃるから、そういう疑問が出るんだと思うんですが、お母様の場合、そういうところが無かったと思います」
どういう意味? と女達は首を傾げた。
ローゼルは目を眇めながらもしや、と問いかける。
「のうクイデ、私達は普通、実家から元々お気に入りの小間使いを連れてきたり、紹介されたとしても基本的に気に入ったから置いておくものだと思っていたが、セレジュの実家では違っていたというのか?」
「私は」
クイデは目を伏せる。
「お母様は好きな人間がいなかったと思います。少なくとも、この王宮では」
「ちょっと待て、クイデ」
さすがにそこまで言われると、セインも女達の話に口を挟まざるを得ない気になる。
「俺の記憶では、母上は、誰にも親切だったと思うんだが」
「お兄様、親切と好きとは違うって、貴方こそよく知っているんじゃないですか?」
「何だと?」
「バルバラ様にお兄様は当初、親切になさってはいたけど、そのうち嫌いになっていったのでしょう? だけどそれでもマリウラが現れるまでは、親切ではあったと思うんだけど。お兄様があからさまにバルバラ様への態度がおかしくなったのは、マリウラが現れたからで。それまではお兄様だって誰にでも同じ態度だったじゃないの」