「それはどういうことですか? クイデ」
正妃は問いかける。
昨晩からのクイデの唐突な告白には、さすがに正妃である彼女もなかなか眠れぬ夜を過ごすこととなった。
正妃ローゼルにとっては、第三側妃セレジュは無視したくてもできない存在だった。
幼い頃から次の国王の正妃になるべく教育され、何の疑問もなく嫁いだ。
王がタルカ、アマイデという側妃を持つのもさほど気にしなかった。
側妃とはいえ、そこに王の感情は無かったからだ。
だがセレジュは違った。
王が夏離宮に行くたびに会っていた伯爵家の娘。
ずっと好きで、側妃として入れる機会ができるのなら是非に、ということで入ってきた女だったのだ。
常日頃、自分には存在しない、と思っていたどろどろとしたどす黒い感情。
それが自分にもある、ということをセレジュのせいで思い知らされた。
空閨は構わない、それが自分の仕事、側妃そのものも仕事なのだから、ということで割り切っていた――つもりだった。
だがセレジュだけは。
それでもあくまでローゼルは正妃だった。
気持ちは気持ちとして、自身の役割にひたすら取り組んできたのだ。
替えはきかない。
それが彼女の誇りである。
たとえセインという王子が生まれようと、だからと言ってライバル意識を持つ必要はない。
そう彼女は自分に言い聞かせていた。
実際、その感情を抜きにすれば、セレジュは実にこの側妃達の中で上手く立ち回っていたのだ。
しかし。
「私思うの。お母様の立場で、皆に好かれるってあり得ないと思うわ。少なくとも、他の国で、お母様の立場にあって、命を狙われることが無いなんて信じられない、って先生も仰っていたわ」
クイデは言う。
「カイシャル先生は、帝都の他、様々な国を見てきたの。でも何処も、私達の様に、お父様の立場にある方に沢山の妃がいる場合、争いが起きているって。それこそ血で血を洗うところもあると聞いたわ」
「怖いわ、クイデ姉様、そんなこと」
トバーシュはぶるっと震える。
「でも実際、帝都、皇帝陛下の後宮も大変だそうよ。特に皇帝陛下の後宮では、お妃の人数も、お子様の数も、それ以外の現在の皇帝陛下のきょうだいの娘息子といった人達が皆能力で次の地位を虎視眈々と狙っているって聞いたわ。それに比べると、私達のところは、ちょっと気味が悪いくらい仲がいい、って」
「仲が良いのは悪いことではないだろう?」
正妃はクイデに問いかける。
「ええ、正妃様。私もそれはそう思います。でも皆、ご実家の事情とか、ご自分の感情とか、普通は色々あるものではありませんか? 私はもやもやしています。お母様はあの立場でどうして好かれていたのか」
「するとクイデ、何かをセレジュはしていたというのか?」
「していた、というか……」
あくまで自分の見た範囲だけど、とクイデは付け加える。
「お母様のところに、仲の悪い小間使いの新入り同士が居た時のことなんですが……」