テルガ男爵は言う。
「自分が持っている程度の麻酔では、三時間がいいところでしょう。この先どのくらいの禁断症状が出る者があるか判りません。いずれにせよ、外部――そちらの信用できる筋の外部からの要請は願いたいところです。自分は男爵とは言え、ただの町医者に過ぎませんし、現在持っているものはこの鞄一つですから」
「承知致しました。外部の医師を手配致します。そして国王殿下、眠らせた者達は隔離させた方が良いですね」
問いかける形だが、それは半ば命令に近かった。
麻薬常習者はそれ自体が証拠になる故に、彼等の管轄に置きたい、との。
「そうか、この時間の空きは、あぶりだしだったんだな……」
ティミド・スルゲンはつぶやく。
前日、審議の続きは今日、ということで皆集合する。
だが審議は中止。明日となる。
前夜の分けられた部屋の扱われ方からして、そこに居続ける者は少ない。
暇を持て余す貴族達は集合してそのまま動かないだろう。
そして時間が経つにつれ、中には禁断症状が出る者があるだろう。
その割り出しと確保のためのあぶりだしなのだろうと。
王は護衛騎士に続けて依頼する。
「もしかしたら、分けられた部屋の方でもこの様に具合が悪くなっていたり、この様な体臭をさせている者があるかもしれぬ。こちらに集合している者、そして部屋の方に居る者、全てを確認願えないか」
「それも了解いたしました」
彼は部下にてきぱきと指示する。
「そんな、所持品の検査なんて……」
「どうかしている!」
それは特に侯・伯爵の辺りから声が出た。
「黙れ」
王は一喝した。
「昨日も辺境伯令嬢は我々に告げていたろう。トアレグ産の麻薬輸出入ルートを作った者を割り出すと。すなわち、そのルートが現在存在しているのだと。儂は全く噂は聞かない訳ではなかったが、こここまであからさまだとは思ってもみなかった。全くもって恥ずかしい。そして今こうやって、中毒者の存在も明らかになっている。理由はどうあれ、麻薬がこの国で、宮廷で広まっている、これは断じて許されることではない」
そう言う中で、また一人、ふらりと気を失う女性が居た。
伯爵達の集まる辺りだった。
テルガ男爵はすぐに走り寄ると、女性をさっと診る。
うなづくと、ホルテが彼女を運び出そうとする。だがさすがに気を完全に失った人間を引っ張り出すのは難しい。
「私も」
そう二王女も手を添える。
「ありがとうございます。では、そちらを……」
三人の女性によって、次の中毒者が運び出されていった。
女性は手首に小さなバッグを金鎖で巻き付けていたので、そのまま彼女と共に運ばれていく。
するとそれに「あ」と手を伸ばす者が居た。
「お待ちなさい」
護衛騎士が、その手を掴んだ。
「な、何だね、私はただ、妻の荷物を……」
「奥様の荷物も調べさせていただきますが、貴方自身もご同行願います。ええと確か」
表の写しを見て、護衛騎士は伯爵らしき男の名を告げ、引きずり出した。