「それは否定致しません」
エルデは即答する。
「そも王家に最初の子として生まれた以上、考えざるを得ないでしょう。そして長子である私を降嫁できるちょうど良い貴族がそう居ないということもありますし」
ここでも後ろ盾があるかどうかで降嫁先も異なってくる。
エルデとアマニとユルシュの降嫁先は、少なくとも侯爵辺りまでであるのが理想である。
他国の王子を婿入りさせるという手もある。
これがクイデとトバーシュであるならば、伯爵辺りまで範囲を広げられるのだが、エルデとユルシュの辺りは、ちょうどいい年頃の令息や他国の王子というものが居なかったのだ。
「ですので、未婚でこの国のために尽くす覚悟はできております」
「うむ。判った。もし儂が今回の件で、王位剥奪ということになったなら、中継ぎの女王という形で其方が地位につくがいい。そして時期を見て、ミルトに譲位せよ」
「判りました」
それを聞いて第一側妃はあからさまに驚いた顔をする。
「陛下、エルデで構わないのですか」
「何を言う。きょうだいの中で最も賢いのはエルデだ。口にはしなかったが、男子だったら、と思わなかったことはない」
国王は自分が凡庸な統治者であると知っていた。
だからこそ、自分の代は穏便に済ませ、次代に良き者を、と思い次々に側妃を入れ、子供を作った。
特に第三側妃の後の二人は、健康で聡明な者であればいい、とばかりに後ろ盾無しに選んだ者だった。
結果として、ミルト・ナギスの両王子とトバーシュは付けた教師達にも、人並み以上の能力を認められている。
だが自分の最も愛した第三側妃の子であるセインとクイデに関しては、ややその辺りで劣るのだ。
それ故に、教育者には気を配ったつもりだったのに、と。
「私は、陛下、あの時点で上がった候補の中でデターム子爵を推したことは決して間違いではないと思っております」
正妃は言った。
「何故だ?」
「当時、帝国アカデミーから帰還した優秀な者を、という流れがありました。無論国内での優秀な教授も候補には挙がっておりましたが…… ただここで、第三側妃が、珍しく私に相談してきたのです。息子はエルデ程賢くは無いので、これまでの王家の教育方法では詰まってしまわないか、と」
「母上が?」
「お母様が? でも私の時には後でアマニにもつけた先生が来たわ、お兄様の時の様なことは特に無かったのでは?」
クイデは驚いて口を挟んだ。
「亡くなったひとのことを悪く言うのは何ですし、私があれこれ言うと、嫉妬と見なされるのが嫌だったので、あえて今まで口には致しませんでしたが」
「そんな、正妃様」
「それは」
側妃達は口々にそんなことは無い、と言う。
実際彼女達にとって、正妃は子供が居ないだけで、正妃として実に皆に対して公平で誠実な「上役」だったのだ。