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11 ランサム侯爵を名乗っていた男の告白①

「ラ、ラルカ・デブン!?」


 そう叫んだのは、例の教授だった。


「ご存じですか? スルゲン教授。発言をどうぞ」

「……あ、失礼。ラルカ・デブンは確か、私が先ほど説明した思想の持ち主の中でも急進派だった、と記憶しております」

「二十年も昔のことでもぱっと思い出せる程に?」

「はい。自分の様な基本的に思想関係に興味の無い者でも、当時彼はアカデミーの広場で演説したり、立て看板を作って学生達にアピールしていたので」

「そうですね。こちらの資料にもその様なことが書かれています。当時その様に積極的に活動していたのは総勢十五人。その中の六人が、アカデミーを追放されています。いえ、正確には逮捕され、その後我がザクセット領の、特に寒冷な地へと流刑になっていたはずなのです。ところが、そこでも分かれて収容していたはずの六人が、十年程前から、個別に脱走しだしたのですよ」


 冷静にそれを告げるバルバラの姿を見て、セインの表情は唖然としたものに変わっていった。

 寒冷地への流刑? 

 それが辺境伯の治めている地の?

 流刑とは。

 そもそも彼にとって思ってもみなかった単語だった。

 それを平然と当然のことの様に語る彼女を見て、彼はこれが果たして今まで自分の近くに三年がところ居た女なのか、自分は一体何を見てきたのか、と愕然とした。


「さてそこでランサム侯爵を名乗る貴方は、どうなのでしょう?」

「ふん、それはもう調べがついているのだろう? 判っているさ、こういう裁判の場合、既に調べてあることの確認作業なのだろう?」

「では、貴方は自分がラルカ・デブンであることを認めるのですね」

「ああそうだ。さすがにここまで来たら取り繕っても仕方がない。俺はあんたの領地の、大地がほんの一ヶ月か二ヶ月ほどしか溶けない地域に送られ、十年がところ労働にいそしんできたさ。まあそれはそれで厳しく辛いものだったが、凍る大地の可能性とかも考えさせられたけどな。ついでに言うと、向こうの女との結婚できる機会もあった」


 ぱっ、とその途端マリウラは彼の方を向いた。


「向こうに元々住んでいた女、向こうにやはり流刑になった女、そういうのと結婚することもできた。ザクセット辺境伯は囲い込みはしたが、その中でそれなりに人間的な生活をさせようとしていたことは理解していたさ」

「凍る大地の可能性に関しては、貴方が父に提出した、地下に眠る資源の件ですね。それは非常に大きなものです。貴方がいなくなってのち、窮理学者をアカデミーから呼び、調査も現在でも進行中です。ですが、だったら何故その可能性のある仕事に従事し続けなかったのですか。貴方はそれを労働の中で発見できることができる程の人物であったなら、何故、それを生かして、元々の考えの通り、人々の生活を豊かにしようという方向に行かなかったのですか」

「辺境伯令嬢。あんたは、とても若い」


 ランサム侯爵ことラルカ・デブンは静かな声でこう言った。


「向こうで所帯を持った。女に子供が生まれた。だからこそ、その地でやっていこうとも思えた。だがそのどちらもが死んだらどうだ?」


 彼を見つめるマリウラの唇が震える。


「あの極寒の地では、簡単に子が死ぬ。そしてそれを生きがいにしていた妻は、生きる気力を無くし、次第に弱っていった。日差しが少ない大地は、憂鬱になる者も多い。妻は氷の穴に飛び込んで、戻って来ない。俺はそれであの地に居る理由を無くした。そんな折りに、手紙が届いたんだよ」

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