乱、と聞いて貴族達はざわめいた。
自分達の領地ではどうなのか、その様なことを考える者は居ないのか、唐突に彼等は不安になったのだ。
「今回私がこの国に赴いて、はっきりさせ、そして裁かなくてはならないのは、チェリ王国の王室を緩ませ、その上でトアレグ産の麻薬の大量輸出入ルートを作り、二国の国境線をゆるゆるにしようとしている者達、そしてそれが成功した暁には、トアレグの南、メテラとも組み、帝都の支配を離れようとしている一派です」
そしてセインの方を向き、彼女は付け加える。
「つまりセイン殿、貴方はその一派にまんまと長年利用されていた、ということです」
「……そんな」
「貴方自身を罪には問えません。ただ貴方は疑問を持たない無知だっただけです。国王殿下、セイン殿に関する処分はお任せ致します。弱すぎず強すぎず、相応の処分を」
国王は了解した、と短く答えた。
その処分の方法自体で、自身もまた問われるのだろうと彼はよく知っていたのだ。
「……殺されるのか?」
セインは弱々しく訊ねる。
「それは私の領分ではありません。それとも、セイン殿は、自分が殺されるに値すると思っているのですか?」
彼は黙り込んだ。
「その意味で、今回まず次代の国王候補であったセイン殿に誤った知識を植え付けたバーデン・デターム子爵当人に関しては帝国全土指名手配をかけ、見つかり次第帝国法における国家反乱罪を適用することになるでしょう」
「では、彼の家族、いや、我々一族は」
先ほど詰問されたマクラエン侯爵は手を挙げ、質問した。
「一族の方々に関しては、その思想にかぶれた者が居ないか、後に一人一人個別の調査が入ります。問題の無い者にまで罪をなすりつけることは皇帝陛下のお嫌いになることです」
マクラエン侯爵は、杖の持ち手をぐっと掴んだ。
おそらく既に一族のそれぞれの領地に、手の者が配置されているのだろう。
下手な動きをする者が無ければいい、と老侯爵は思うしかなかった。
「デターム子爵は『飛び地』を利用してもいました。あれを領地としている辺りにも問題がありました。そこから茶と共に麻薬が持ち込まれている形跡もあります。よって、デターム子爵家自体は取り潰し、飛び地は国王殿下、トアレグ王国と交渉し、買い取りさせる様に交渉を願います」
「了解した。それに伴う、トアレグとの国境線の強化もだな」
「よしなに」
「飛び地」に関しては、実際代々の国王が放っておいたものだった。
トアレグとの関係が友好的であるだけに、逆に「飛び地」があることで商業的には利益があるものと思っていた。
だがそこに麻薬が混じるとなれば話は別だ。
「そこまでが、直接第一王子セイン殿、ひいては未来のチェリ王室を緩ませようとした元凶についてです。次に、これから緩ませようとした者に関しての審議を行います」