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7 裁かなくてはならない内容① 

「再開致します」


 再び席についたバルバラの声で、ざわめいていた貴族達の態度が引き締まった。


「まずこの休廷時間が帰宅しようとした方々。拘束は致しませんが、こちらの手の者を、見張りのために即座にご自宅の方に向かわせました。国が不安な時に即刻逃げだそうとする態度は、貴族として如何なものでしょうか?」


 幾人かが、ぎり、と歯を噛み締めたり、膝の上で拳を握りしめたりしている。


「今回の件の審議が終わるまで、皆様には王宮に留まっていただきます。無論その間の食事等は保証致しますし、それぞれのご家庭へ連絡致しております。先ほどの見張りの件とは別に全ての貴族の方々の屋敷の方へ。また本日元々欠席という通知を出していた家に関しても、既に捜査の者が回っております。何も無ければそれでよし。逃亡を謀っていたならば、その時は」


 バルバラは言葉を区切った。


「さて、先ほど私はまず前提として、第一王子セイン殿がこの様な愚行を起こした原因について、先にはっきりさせておきたいと思い、先ほどの問い及び、関係者について問いかけました。国王殿下、よくおわかりになりましたでしょう?」

「ああ」


 国王は失望をにじませながら、低い声を発する。


「我が息子がまさか、そんな基本的なところの知識を欠いていたなど、……誰が思おうか。当時バーデン・デタームは帝都帰りの学者として、皆に期待されていた。それ故に特に地政学の基礎をきちんと教えていた、と思い込んでいた。だが既にそこから間違いがあったのだな」


 バルバラは一つの資料を持ち出す。


「デターム子爵が帝都で学んだのは、現在より二十年前。確かに帝国アカデミーにおいても、優秀な成績で卒業しております。ただ、この時期彼の周囲には、新奇な思想がはびこっておりました」

「思想?」

「二十年前にやはり帝国アカデミーにいらした、スルゲン教授、当時のことで思い出せることはありますか?」


 スルゲン教授と呼ばれた男が立ち上がった。


「スルゲン伯爵三男、王立大学窮理学教授ティミドです。自分は爵位を継がない三男でしたので、学問の道に進むために帝都へ留学しておりました。当時の帝国アカデミーは、人材確保のために貴族だけでなく、庶民からも優秀な人材を集めておりました。現在もその様ではありますが、あの時代は特に熱気がありました。ただ、庶民と貴族が同等に物事を語り合う様になると、どうしても体制批判という話が出てきます」

「詳しく」

「そこで出たのが、帝国が皇帝陛下のもと、皆一様に生活ができる様に、貴族という身分も無くす様に、という思想です。これは出ては潰れ、出ては潰れを繰り返す考え方でした」

「その時はどうでしたか?」

「この時は盛り上がりすぎて潰される寸前でした」

「潰されましたか?」

「いいえ」


 教授は首を横に振った。


「この時期のその思想に染まった学生は、あえてそれを心の奥に閉まったまま、それぞれの故郷へと戻っていきました」

「その思想に関して、スルゲン教授はどう思いますか? 考えに過ぎませんので、皇帝陛下を批判する内容であったとしても構いません」

「自分は元より、皇帝陛下を批判するつもりは毛頭ありません。そして自分は政治学には疎い、天文や自然、数学といったものを扱う窮理学の専門です。ですからあくまで、合理的であるか否かということだけで答えさせていただきます」

「どうぞ」

「彼等の考え方は、一見貧しい者にも皇帝陛下の命により、貴族階級の資産を没収した後に平等に配布し、一定の余裕を、というものです。ですがそれは無理です」

「何故ですか?」

「皇帝陛下は神様ではないからです」

「続けて」

「広い帝国本土及び属国を平定し、統治している皇帝陛下ではありますが、一人でそれをなさっている訳ではありません。物理的に無理です。その下の役職の者が必要です。そして役職に就くには知識が必要です。ですがすぐにどうこうできる程、未だ庶民の知識は高くありません。貴族にその職が回っているのは、貴族に一定以上の教育が与えられているからでしょう。彼等の考え方が受け容れられるとする以前に土台ができておりません」

「判りました。私もそう思います。率直なご意見ありがとうございました」


 バルバラは軽く教授に頭を下げた。


「ただ、皆が皆、教授の様に可能か不可能か、ということを理性で判断できる訳ではありません。現在、帝都の周辺都市において、これらの考え方を広めて乱を起こそうとする動きがあります」

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