言い分も何も、と思いつつも、セインは彼女の正面、半円の真ん中に置かれた椅子へとうながされて行く。
本当はそんなことを彼はしたくはない。
何せ先ほど目の前で母親が自害したのだ。
しかも目の前では、自分が婚約破棄して陥れたと悦に入るはずの女が、帝国? の紋章をつけて目の前に居る。
セインには何のことやら判らない。
だがどうも今の様子だと、腕を掴んで引きずられていきそうだ、と彼はしぶしぶ椅子に掛けた。
「ではまず質問させていただきます。セイン殿。貴方はまずこの王国と帝国との関係をご存じですか?」
「我が国は帝国と友好な関係を結んでいて、向こうに常に一定の人数官吏を置き、そして友好の印にこちらからも向こうからも使者を通して贈り物がある関係と聞いている」
「なる程。それでは、そのことはどなたからお聞きになりましたか?」
「教師からだ」
「教師とは?」
彼は細かいことを聞いてくるバルバラに苛立つ。
そのテーブルの上に積まれている書類には書かれているのではないか、と。
だが黙っていると、続けてバルバラは同じことを言葉を変えて問いかけてくる。
「セイン殿、貴方に教えたのは誰ですか」
「……俺の家庭教師として、長い間出入りしていたバーデン・デターム子爵だ」
「デターム子爵にはいつからいつまで、何を教えられていましたか?」
「七歳の頃から、読み書き計算の他に覚えるべき知識があるということでつけられた。そして十二の歳から、王族教育が加えられるまで五年間、この国の広さや成り立ち、そして周囲の国のことについて学んだ」
「宜しいです。では一旦お下がりください」
彼は国王の隣に座る様に示された。
父王は既に真っ青な顔でがたがたと震えている。
セインは何故父王がここまで震えているのか、まるで判らない。
そしてその一方で、自分と席を離されてしまったマリウラのことが気になっていた。
そんな彼の思いとは無関係に、前方から冷静な声が続く。
「さて、バーデン・デターム子爵に関してですが……」
バルバラは周囲を一通り見渡す。
他の女性と異なり、きっちり固く結われた彼女の髪は微動だにしない。
このパーティに参加した女性達は、流行の緩やかに下ろした髪を自慢している者ばかりなので、あちこちでその髪が不安や恐怖で揺れている。
「この場に居りませんね。国王殿下、彼はこのパーティに出る義務がありますか?」
「ある…… はずだ。儂は国の貴族全体に招集をかけた。自身が出られないなら、代理を立てることとも」
「そうですね。出席自体が、王家に対する忠誠に通じます。ですが、本日、デターム子爵家からは誰も出席しておりません」
周囲がざわめく。
「それではデターム子爵は何故出席していないのか、ということですが、その件について、デターム子爵の本家である、マクラエン侯爵、理由を説明下さい」
侯爵の地位を持つ出席者の中から、のっそりと杖をつきながら、マクラエン侯爵と呼ばれた人物が立ち上がった。